「───」
霧切さん、十神くん、日向くんの叫び声の中に聞こえた声。どこか懐かしい声。
それは本当に本当に小さな声で、多分ひとり言みたいなものなんだろうと思う。
それが、件の狛枝さんの声だって気づいたのは、自分がその狛枝さんに抱きしめられるかたちでベッドに沈んだからなんだけど。
「狛枝」
「やあ、おはよう。日向くん。そして超高校級の御曹司、十神白夜くんに…そっちのこは、ちょっとわからないけど、78期生の霧切響子さんだよね」
「苗木さんを離して」
「いやだっていいたいところだけど。まあ、この状態で喋るのもちょっとつらいし…はい、どうぞ」
ぱ、と腕の中から開放された瞬間、霧切さんに手をひかれ、そのまま十神くんと霧切さんに挟み込まれる位置に立たされた。
狛枝さんはゆっくりと体を起こして、立ち上がる。
「本当に起きたのね」
「別にめざめなくたってよかったんだけどね。絶望であるボクやみんなが生きてるなんてなんって『不幸』なんだろう」
「…」
「ねえ、日向くん。約束したんだよね?だからはやくここからでていってくれないかな」
「今のお前をどうやって信用しろと」
「やだな、ちょっと感動のあまりリアクションが大きくなっただけだよ?大丈夫、キミたちの大事な『希望』を傷つけることはしないし、ボクにできるはずがない」
知ってるよね?と狛枝さんはぼくいがいの三人に問いかける。
「…わかったわ」
「霧切?」
「約束したのは確かよ。苗木さんにもそういってある。万一の時には何をしてでも逃げなさいって」
「まんいちのとき、って…」
霧切さんの狛枝さんを見る目は厳しい。
それは、十神くんにも同じことが言える。
どうして、二人がこんなにも狛枝さんに対して警戒しているのかはわからない。
日向くんは暴れてた、って言ったけど、今の狛枝さんを見る限り、ちょっとネガティブなとこもあるけど、絶望におちた人間だなんて思えないぐらい落ち着いているようにみえる。
「じゃあ、私はこんどこそ二階へ行くわ。十神くん、いくわよ」
「霧切、お前」
「…」
でていこうとした霧切さんと一瞬視線があう。複雑な色を浮かべたそれはすぐにそらされた。
十神くんは一回ため息をついて、なんかあったらすぐに叫べ、とだけいって霧切さんのあとをおう。
部屋には日向くんとぼく、狛枝さんの三人だけが残された。
「日向くんはいつになったらでていってくれるのかなあ」
「狛枝、お前は」
「ボクは彼女と二人で話がしたいんだ。…知ってるくせに、」
しばらくの沈黙の後、日向くんは諦めたように立ち上がる。
「お前のためじゃないからな」
そういって、日向くんは部屋を出ていった。
ばたん、と閉まった扉。
二人きりになった瞬間さっきのことを思い出してちょっとだけ、顔が熱くなる。
男の人に抱きしめられたことなんてないから、今更妙に意識してしまうようで恥ずかしい。
「こっちにおいでよ」
さっきまで日向くんのいた椅子に座った狛枝さんが手招きをする。
それに導かれるように、ぼくはベッドの縁に腰掛けた。
「さっきはごめんね、びっくりしたでしょ」
狛枝さんの謝罪に、ますます意識してしまう。
いえ、大丈夫、です、なんてよくわからない返事をしてしまった。
狛枝さんはちょっとだけ笑った後、ぽつぽつと話し始めた。
島での生活のこと、めざめたあとのこと、そして、その前のこと。
「ボクはね、結構全部覚えてるんだ」
自分の幸運のこと、絶望にとらわれていたときのこと。
狛枝さんの左腕が江ノ島さんのものだったというのは、霧切さんに聞いて知っていたけど、実際にあの真っ赤に塗られた爪をみると、学園でのコロシアイや、その前の希望ヶ峰での生活を思い出して胸がぎゅっとなった。
「──ボクが目覚めたことを『幸運』だと思う?『不幸』だと思う?」
唐突な狛枝さんの疑問。
ぼくには答えられなかった。
さっき、狛枝さんが自分自身で『不幸』だといっているのをきいていたから。
黙ったままのぼくに、狛枝さんは笑う。
「…ごめんね、意地悪な質問だった」
狛枝さんの右手がぼくの右手に触れる。
「さっきはあんなことをいったけど、この目覚めは確かに『幸運』だと思っているんだ」
「…」
「ボクはずっと、『希望』を輝かせるのは『絶望』だって思ってた。だから、希望ヶ峰で、ボク自身が『希望』だと信じたものが…絶対的な『希望』が輝くためには、絶対的な『絶望』が必要なんだって思ったんだ」
「それは」
違う、と続くはずの言葉はその途中で遮られた。
…気づいた時にはまた、狛枝さんの腕の中にいた。
「ううん、違わない。だからこそ、ボクは目覚めることができたし、キミたちは…キミはあのコロシアイの中でも生き残った」
ねえ、まことくん。
囁くように呼ばれた名前。
知らないはず?知っている?
どうして懐かしいと思ったの。どうして、皆を知っていたの。
なにを皆は知ってたの。なにをぼくは知らないの?
ただの希望ヶ峰学園の頃の先輩、それだけじゃない?
なんで、霧切さんと十神くんがあんなにも狛枝さんを警戒していたの。
日向くんは「誰のため」に部屋をでたの。
「ずっと、ボクはキミにあいたかったんだ」
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