ボクは自分のこの体質を呪っていた。憎んでいた。
関わっても碌なことにならない。寧ろ自身だけでなく周囲まで巻き込むその天災染みた厄とはなるべくお近づきになりたくなかったからだ。
見ないフリ。聞かないフリ。そんな風にして生きてきた。否応なく関わることはあったけれど、それも交通事故のようなものだと思いながら。
今ではもう諦めも付いたけれど、幼い頃からの習慣は簡単に払拭できるものじゃない。
そんな風にして、ボクはその体質で見えるものや聞こえる声とはすすんで関わることなく生きてきた。
少ない関わりの中で知ったのは、ああいう人たちは結局皆自分が大事で人の話なんて聞いちゃいないということ。
意思の疎通なんてしたことないし、できた試しもなかった。

──だから、今。ボクは正直感動していた。

"…大丈夫?"

ひらひらと小さな掌を動かす少年はボクを心配そうに見つめている。
碌な反応を返さないボクをどう思ったのだろうか。彼は困ったような表情を浮かべる。序でに頭の上にぴょん、と伸びていたアンテナのような髪もへなりと萎えた。

「…大丈夫だよ」

驚いただけだ。感動と喜びに。
彼の力が本物だということ(だって、この部屋にはりついていたり寄ってきたいろんな良くないものが、扉を開いた瞬間消えたのは多分そういうことだろう)と、彼が全うな人(というのが妥当かはわからないが)であったことに。
ボクの返事に、彼は嬉しそうに微笑んだ。

"よかった…じゃあ改めて、ボクは苗木。苗木誠です"

彼が笑った瞬間に、ぶわっと何かが広がった。家の外でぱんぱんと何かが弾ける音が聞こえたから、多分またなんか消えたんだろう。
ボクの部屋に澄んだ空気が充満する。なんということだろう。ボクのよせつけたもので、簡易心霊スポットになっていた部屋がまるでパワースポットのような清浄な空気に包まれている。
電気製品なんかのマイナスイオンなんて目じゃないほどのそれに、ボクは少しだけくらりとなった。

「…っ、日向クン!」
「なんだよ」

いてもたっても居られなくなって、ボクは友人の名を呼ぶ。
こんなにも、日向クンの0感体質を残念に思ったことはない。この感動を共有できないなんて。
日向クンはボクを気持ち悪いものを見る目で見ている。息が荒くなってる自覚はあるから多分その辺だ。

"ひなた?"

苗木クンは、ボクの呼んだ名前を聞いて、横にいた友人にその視線をむける。
こてん、と幼く首を傾げる苗木クンはとても可愛い。ハムスターとか、ウサギとかそんな小動物のような愛らしさ。
でも、その丸い大きな目がボクじゃなくて日向クンをうつしたことがなんか面白くなかった。

「…そうだよ、彼は日向創クン。そしてボクは狛枝凪斗だよ…苗木クン」

急に下がったボクのテンションに、日向クンが首を捻っているのが視線の端で見えた。
相変わらず分かんねー奴、という呟きも聞こえたけど無視をする。正直日向クンにかまってる暇なんてない。
苗木クンは、というと一回二回、小さく頷いたかと思うとまたボクに視線を戻す。それが、嬉しい。

"狛枝クン、と日向クンでいいんですか?"

真直に見つめてくる苗木クン。ぎこちない敬語に、普通に話していいよ、というと苗木クンは嬉しそうに頷く。

"狛枝クンはボクのこと、みえるんだね"
「そうだよ。」

キラキラした目で言われてボクは正直に肯いた。すると苗木クンは少しだけ悲しい顔をしてボクに尋ねる。

"…怖くない?"
「全然。寧ろ、苗木クンみたいこがいるんだな、って思った」

そんなボクの返事が意外だったようで、苗木クンは大きな目をますます大きくした。

"ボクみたいな?"
「そうだよ。キミのおかげだと思うんだけど、ホラ。この部屋すっきりキレイになった」

キレイ?と言って苗木クンは首を傾げる。そして、部屋をくるりと見渡してもう一度同じように首を捻った。
そして、わからない、というように尋ねる。

"ボクなにかした?"

自覚がないのだろう。本当にわからないようだった。

「ボクは体質的によく良くないものを寄せ付けるんだけど…それが苗木クンのおかげで全部キレイになっちゃったから」

ありがとう、というと苗木クンはびっくりしたようにわたわたと手を振って否定する。

"え?ボクなにもしてないよ!違うよ"
「ううん、日向クンが持ってきたあそこもキレイになってたし、ほら、今も──」

ボクがいる。だからこそ、良くないものはこの部屋に集まってくる。
だけど、苗木クンが話すたび、笑うたび。そこから何かが生まれる。そして、ボクの部屋は清浄を保ったまま。
それが、彼の力だと言わずになんといおう。
それでも否定する苗木クンに、ボクはただ笑う。

"でも──"
「でもボクはキミのおかげだって信じてる。ありがとう」

そういうと、苗木クンは顔を赤くして笑った。







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