ボクの体質は、最近大分なりを潜めている。
やっぱり妙なものはみるけれど、それがボクに干渉することなんてできない。
変な声も聞こえるけれど、決定的な何かが起こることはない。
不運はやっぱりあるけれど、どれもこれも今までのものと比較すると非常に低度なものだった。
その原因なんてボクには一つしか思い当たらない。
推測なんてものじゃない。これはもう確信だ。
──苗木クンだ。
日向クンがくれた幸運の苗木の効果は民俗学系の後輩たちがいっていたように確かなものだった。
ただ、その元が苗木というよりもそれについていた苗木誠クンのほうだったというだけの違いだ。
苗木クンとはじめて話したあの日から、苗木クンはボクの部屋にいる。
ボクの生い立ちというか、体質のあれこれをきいた苗木クンがボクが役に立つのなら、っていってくれたからだ。
ボクは、その優しさにつけこむようにして、多分ずっと望んでいたものを手に入れた。
一つ目は、平凡で平穏な生活。体質を気にすることのない、平和な日常。
二つ目は、大切だと思える人──この子のためならなんでもしてあげたいって思えるぐらいの。
苗木クンは笑って、ボクの傍にいてくれる。こんなボクなんかの傍にいてくれる。
狛枝クンがいてくれてよかった、ありがとうって、そんな風にいってくれる。
そんなことは今までなかった。仲良くなった子は離れていった。離れていくのが当然だから、それなりの付き合いしかしていなかった。
日向クンも大切だけれども、日向クンとはちょっと違う。そんな相手。
「ねぇ、苗木クン。昼どこいこうか」
"あれ?狛枝クン今日学校ないの?"
着信のランプがチカチカ光る。受信したメールは日向クンからのもの。
内容を確認して、苗木クンへと声をかけると逆に不思議そうに尋ねられてしまった。
「今日の授業は休講になったって、日向クンからメール来たんだよ。だから今日は午前中でおしまい」
"そうなんだ。えっと、じゃあね…"
ボクは、苗木クンが来てから割と色々な所にいくようになった。
民俗学にフィールドワークは欠かせないけれど、ボクは体質のこともあってあまり外出を好まない。
それに対しては、教授とかからも注意を受けていたけれど、正直いって大きなお世話というものだった。
好まないだけで一応出ていくし、大体行く場所がある意味特殊だから人と一緒に行くこともないというだけのこと。
今では、幾度かボクの体質のとばっちりを受けてからだろう。そんなことを表立っていう人もいなくなった。
「…海?」
"うん。ちょっと見てみたいんだ!あ…いやだったら、いいんだけど"
「大丈夫だよ。苗木クンと一緒なら平気」
海をみたいといった、苗木クンにボクは無意識のうちに変な顔をしてしまったらしい。
海には若干のトラウマがある。ありきたりだけど、海中に引きずられるっていうアレだ。
それを思い出してしまったけれど、苗木クンが望むのならばいってもいいかな。っていう気になる。
それよりも、ボクのせいで苗木クンの浮かべた悲しそうな顔のほうが問題だった。
「苗木クンのおかげでボクは助かってるから。だから大丈夫だよ」
"本当にいいの?"
心配そうに聞いてくる苗木クンは可愛い。まるで小動物のようで、思わずぎゅっと抱きしめたくなってしまう。(本当の小動物を抱きしめたことなんてないけど)
うん、とボクがうなずくと、ぱあああっと明るい笑顔を浮かべてくれた。うん、ボクはこの笑顔のほうがすきだな。
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