空が青い。風は冷たい。
暦の上ではもう春だがそんなこと関係ない。寒い冬。それだけだ。
一人広場で時間を潰す。目の前を行き交う人々を見ながら口元が歪んでいる。知らぬ人からは変人だと思われるだろう。
友人に見られたなら気持ち悪いと一蹴されるだろうか。どちらにしても今の日向には関係のないことだった。心中はただ幸せな気分で満ちている。
久しぶりだし、お休みだし、あえないかな、という可愛い恋人からのメールで今日の予定は決まった。
何もなければいつものように家でだらだらとするだけだっただろう。そんな日向は、断る理由なんて持ち合わせていなかった。寧ろなんで自分から誘わなかったんだと思っているほどだった。
彼女曰く、午前中は学校に行かなければならないということだったので待ち合わせは午後三時。今の時刻は二時半。あと三十分の待ち時間。

学校のあとなら制服だろうか、それとも部屋に戻って私服に着替えてくるのか。想像の中の彼女がくるくると様々な格好でこちらに笑いかける想像をしながら時間をつぶす。
結論としては、正直どちらでもいい。制服姿もとても愛らしいが、私服姿もまた似合っている。
彼女はどんな格好をしていたっていいのだ。どんな彼女だって日向には可愛く映る。惚れた欲目とはこのことだ。別に悔しくなんてないしそれもまた楽しいことだった。
そんなことを考えている間に時は過ぎて行く。あっというまに五分前。
少しはなれたところから駆け寄る見覚えのある姿に口元には思わず笑みが浮かぶ。ああやっぱりかわいい。

「ごめんね!寒かったよね…っ」

ばたばた、と走ってくる彼女の格好は私服にしては珍しいスカート姿。可愛らしいけれど、その短さに少しだけはらはらしてしまう。
太腿の見える短いスカートとニーハイソックス。いつものようなパーカーではない、カーキ色の少し長めのコートはちょっと気に入らないけれど。
寒くないだろうか、と思って特に露出している太もも部分に目が自然と行ってしまう。そこに心配だけでない色々なものが含まれてしまうのは男の性ではないだろうか。

「気にするな。まだ時間前だ」
「だけど…」

ほら、といって腕時計を見せてもそのへたりと下がってしまった眉は戻らない。
久々会うのに、申し訳なさそうな顔ばかりじゃつまらない、と彼女の手を握る。
そうすると、走ってきたからか赤い顔が更に赤くなる。前は手を握ったりするのも普通だったのに、意識してくれているんだなと嬉しくなる。

「っひなたくん!」
「久しぶりだな、苗木」

外で待っていたからか、冷たくなっていた手には苗木の暖かな温度が心地いい。
笑っている日向を見て苗木は真っ赤な顔のまま、小さく息をついてそっともう片方の手で包み込むように触れた。

「冷たいね……いつから待ってたの?」
「さっききたとこだ。大して待ったわけじゃない」

だから気にするな、とその手をぎゅっと握りこむ。子供体温な苗木はいつでも暖かいけれど、今の日向にはいつも以上に暖かく感じられた。
中学で同じクラスになって、いつの間にか好きになって。
ずっと言い出せないまま、”いいお友達”を続けてきたけれど。
同じ高校に上がって。異性の中では一番の友人という位置にいたはずだ──苗木の、転校が決まるまでは。
反対なんてできなかった。いくな、と言えれば良かった。
笑ってさよならなんていえるはず、なかったけれど。それ以上に、引き止めることができるような位置を日向は持っていなかった。

でも、今はこうやって一緒にいる。紆余曲折の果てに付き合い始めて一月半。実際に逢ったのは数えるほど。
少しずつ、少しずつだけれども、二人で歩いていければいいと日向は思っている。

顔を赤く染めて俯く苗木を少しだけ困らせてみたくて、日向はその握りこんだ手の甲に唇を近づけた。
すっと掠める感触、と苗木のひゃっ、という小さい悲鳴。
それを聞いて、自分のしたことを思い返す── 一気に体温が上がった気がする。柄にないことをするものではない、と少しだけ後悔した。

「苗木?」
「日向クンは意地悪だ」

だけど、耳まで真っ赤に染めてしまった苗木を見ると、それもどうでもよくなった。自然と口端が釣り上がる。
俯いた顔を覗き込むと、真っ赤なまま、拗ねたような表情で苗木は呟いた。
変わらない、だけど確かに自分を意識してくれている彼女に益々笑みが深くなる。人前だし、自分でもまだ照れくさいから自重しているけれど、本当だったらもっと色々したい。
口に出せば苗木は真っ赤になってしまうだろうことを考えながら、欲を隠しきれていない笑みを浮かべたまま日向は「どこにいきたいんだ?」と尋ねた。

「……どこでも、いいよ。日向クンと一緒にいれれば、それで」

ぽそりと、かえってきた予想を裏切る苗木の言葉に日向の余裕なんてどこかへきえてしまった。あまりにもかわいらしい物言いに思わずぎゅうと抱きしめる。
苗木は抵抗しておしかえそうとするが男女の力の差は思っているよりも大きい。人前で!そう思いながらも叫べなかったのは日向があまりにも嬉しそうな顔をしていたからだろうか。
真っ赤になりながらもそれ以上の抵抗は出来なかったのか、苗木は日向の腕の中で大人しくしている。

どうしよう、可愛い。
余裕なんてどこにもない。このままどこかへ連れ込んで色々したい気もするけれど、まだ早い気もするし。
ああでも、こう、今がチャンスな気もする。

「……日向クン?」

黙ってしまった日向を訝しく思ったのか、苗木がそろりと呟いた。
その声が、きっかけだった。
何かがどこかで弾けたような気がする。でもそれすら、もうどうでもよかった。
抱きしめていた苗木をようやくはなして、酷く晴れやかな笑顔を向ける。

「苗木、俺の家行こう」
「え?あ、うん」

苗木が可愛い。それが悪い。一方的に苗木へと責任を被せて、日向はその心を一色に染めあげる。
にこにこと、笑顔を浮かべて日向は苗木の手を掴み歩き出した。









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