アンケリク…「さんぴゲフンゲフン三つ巴昼ドラ風。」ということで日苗狛にょた話です。
昼ドラに縁遠いのでなんか三つ巴でこう愛憎渦巻いててそれに苗木さん巻き込まれてればそれっぽい雰囲気になるんじゃないかという浅はかな考えで申し訳ないです…
大変遅れて申し訳ございません…!少しでも楽しんでいただければ幸いです…!









それは偶然だった。
その日俺と苗木意外の他の面々はそれぞれの用事で出払っていて、一四支部のフロアに二人しかいなかったことも。
いつもは休憩時間だろうが机に向かって端末を叩いたり、書類の処理をしている苗木が机にソファで転寝していたことも。
そして、いつもはきっちりと止められている一番上のボタンが外れていて、そこから白い肌が覗いていたことも。

前においてある弁当の様子から食べ終わってうとうとして、そのまま寝てしまったということだろう。
状況は掴めた。だから、休憩時間も終わっている今、俺は苗木を起こせばいい。それだけだ。
それだけなのに、俺には出来なかった。どうしても、目が胸元から離れない。
少しだけ、あとすこしだけ。そう考えながらふらふら、と俺は苗木へと近寄る。
起こすつもり。そう心の中で言い張りながら、苗木の肩に触れた時。近くでその白さを見た時。俺は確かに触れたい、と思ってしまったのだ。
みっともないとは思う。下卑た考えだとも思う。
それでも、苗木を特別扱い──それこそ、恋愛感情や欲まで含めた好意を抱く俺を今の状況は確かに試していた。
苗木を好きだと自覚したのは、割と最近で──でも、多分もっとずっと長いこと好きだったんだとその時に気がついた。
伝えてしまえば楽になれるかと思ったけれど、それも許されなかった。だって、苗木にはもうその時すでに手を繋ぐ相手がいたのだから。
狛枝凪斗。大分問題のある、『超高校級の幸運』。
聞けば、学園内にいた頃から二人は傍にいたらしい。それこそ、友達以上恋人未満という中途半端な、立ち位置のままで。
本当の意味で付き合いだしたのは、あの南国生活を終えて、狛枝が目覚めてからだが、それでも二人の間には入れないと思うぐらいの関係を築いている。
だから、言えない。苗木のことを考えるといえなかった。告げることすら出来ないまま、俺の想いは宙に浮いてしまった。
けれど、宙に浮いたままで、消えなかったからこそ、こういう時に、欲がざわりと頭を出す。
起こす為、と自分を偽りながらその眠っている身体に触れる。肩に、首筋に。
少しだけ奥に銀色と赤色が覗く。そして、気がつくと俺はその銀色を手にしていた。
首にまかれていたチェーンを手に、指輪を摘み上げる。
シンプルな銀色。そこを彩る白と紫の石。それがなんなのか、わからないほど俺は鈍くはない。
捨ててしまいたくなるような感情を抑えてそれを握りこむ。

少しの間をあけて、感情を落ち着かせている時。苗木が軽く身じろいだ。
「……苗木?」
一言、呟く。落ち着け。苗木は寝てた。大丈夫だ。
「……ひなたくん?」
うっすらと目を開きながら、苗木が俺の名前を呟いた。
「よく、寝てたな。昨夜眠れなかったのか?もう、休憩時間すんでるぞ」
内心の動揺を気取られないように、笑みを浮かべる。
そうすると、苗木はばちっと目を開けて、俺の顔をじっとみて、壁にかかった時計をみて、また俺の顔をみて勢いよく立ち上がった。
「っ!いかなきゃ!時間!」
日向くん、ありがとう。そういって苗木は自分のデスクへと近づくと準備していたのだろう資料を手にしてばたばたと部屋を出て行った。
それを見送り、一人になった部屋で俺はソファに腰を下ろしほっと息をつく──ばれなくてよかった。
そして、ソファに残った苗木の温度に触れてそっと目を閉じて、さっきの感触を心の中で反芻する。どうしようもないほどの想いを再認識することになっただけだけれども。


「ただいま、よかった間に合ったーありがとう日向くん」
「おー、おかえり」
戻ってきた苗木は、ほっとした表情で部屋へと入り、自分の机に座る。そうして、少しの後ぱたぱたと動き始める。
下をきょろきょろと見回したかと思うと、ソファの近くへと寄ってその周辺をぐるぐると回る。
「どうしたんだ」
気付いたんだろう。そう思いながらも、感情を表に出さないように問いかける。
苗木はその問い掛けに、少しだけ動きを止めてそろそろと質問で返した。
「ねえ日向くん、指輪、見なかった?」
「──見てない」
「そっか」
即答して、自分の失言に後悔する。けれど、苗木は気付いていないようで、心の奥で息をついた。
まだ手の中にある指輪を強く握って、優しい友人の仮面を被る。
「探すの手伝う、どのへんで落としたっていうのとかないのか?」
どの口がいうのか、と心の中で自嘲した。どのへんで、なんてこの指輪は俺が苗木からとったもので、今は俺が握っている。
そういえば、少し考えて苗木は首を振った。
「この部屋か、うちか……あとはさっきばたばたしてたから、どっかに落としたかな……ぐらいしか、思い当たらなくて……」
どうして気付かなかったんだろう。瞳を涙で潤ませながら、苗木はしゅんとその小さな肩を落とす。
自分のしたことだけれども、そんな姿はやっぱり見るのが辛くて少しだけ視線を逸らしつつ、俺は言った。
「見つけたら、苗木に伝える」
「……ありがとう」
その言葉に、苗木は俯いていた顔を少し上げて小さく微笑んだ。


結局指輪をどう扱うか決めかねたまま、次の日を迎えた。
苗木の目元は赤らんでいて、きっと昨日泣いたんだろう。
「おはよう、日向くん」
「おはよう、苗木」
それでも、目を合わせると苗木はそっと微笑んでみせた。その笑顔が痛々しくて、俺はぎこちない笑顔を返すことしかできない。
「……見つかったのか」
俺の問い掛けに苗木は無言で首を振った。
見つかるはずがないのは俺が一番良くわかっているくせに。ポケットの中に入れっぱなしだった指輪を握り締める。
「狛枝には……いったのか」
「凪斗さんは、大丈夫だよっていってくれたけど、大事なものを失くしちゃった自分が」
許せないんだ、といって苗木はぐっと目元を拭った。
その赤くなった目元をみて、罪悪感が込み上げる。ポケットの中で握りこんだ拳が酷く重い。それでも、この指輪を返すことは出来ない。
すぐに捨ててしまおう。出来れば、どこか遠くへ。深い水の底へ、おとしてしまえばいい。
「大丈夫。狛枝、が苗木を嫌うはずなんてないだろ」
そうなってくれれば、どれだけいいことか。
指輪という物質を失くした程度で離れてしまう感情ならば、離れてしまえ。そうして苗木が一人になる──この想いを告げる、権利も持てる。
けれど、俺は知っている。どれだけあの男が苗木を愛しているか。指輪でさえ、きっと彼女を縛るための枷でしかなかった。
思い入れなんてあるはずがない。それがもし、失われたとしても代わりなんていくらでもあるのだ。
苗木一人いればいい。そんな狛枝の心情を俺は知っていた。





「指輪なんてどうでもいいのに、本当まことくんは律儀だなぁ」
今日の逢瀬を思い出し、くすくす、とボクは笑った。
泣きそうに申し訳なさそうに、表情を歪める婚約者──まことくんの姿に胸は痛んだけれど、それ以上に嬉しかった。
だって、気にするということは、それだけ彼女がボクの感情を気にしているということ。あんな指輪一つに、感情を乱される程ボクのことを思っていてくれることに他ならないからだ。
「……どうせ、日向クンがどっかにやったんだろうけど、」
日向創。唯一とも呼べる友人。
様々なコンプレックスと、ボクとまことくんが付き合っている事実を知っているからこそ、余計な常識が邪魔をして日向クンはその想いを誰かに相談することすら出来ない。
だから、彼はボクをあんな目でみるのだ。想い人の婚約者。誰からも認められた相手。自分がそうなることのできない妬心と羨望の炎で彼の目は真っ赤に燃えている。
それを見る度にボクは笑い出したくなる。だって、それでもまことくんはボクのものなのだから!
自分の恋人に対する情欲の瞳が煩わしい。それは確かだ。
けれど、同時に優越感も抱いてしまう。
あれは、自分だ。自分の過去だ──まだ、まことくんと出会う前の。そして、想いを交わすようになる前の。
これまでの人生を振り返り、緩く頭を振る。考えても、意味が無い。だって、今はまことくんがいる。まことくんがボクを愛してくれている。傍にいてくれている。
今迄の全ての不運が彼女と逢い、結ばれるためにあったのだとボクは本気で思っている。
二度と離れないとそういった、その言葉を違える心算なんてボクにはない。だから、日向クンの想いが叶うことは決してない。
「ふふふ、」
まことくんは指輪を失くしたという負い目を抱いている。だからこそ、もう、自分から離れるなんてことはないだろう。
気にするようなら、また新しい指輪を買えばいい。お金を出して、買えるものならそれで事足りる。
「日向クンには、感謝しなきゃなあ」
これから先の未来を思ってボクは笑った。



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