狛枝凪斗にとって、苗木誠という存在は求めていた希望であり光であり救いであった。
はじめて彼の姿を見た時に感じた衝動は今でも覚えている。
モニターの中で行われる、超高校級の生徒達によるコロシアイ生活。
コロシアイ学園生活という絶望的な空間にどんな希望が生まれるのだろう、と狛枝はその中に映し出される様々な絶望を見ながらいつかあらわれるであろう希望を待ち望んでいた。
一人目が殺され、二人目がオシオキにより死に──それでも、狛枝はただただその中継の中で誰が希望と成り得る存在か、それだけを考えていた。
狛枝は死者を悼むことはない──死んでしまった生徒は、結局希望になれない、ただそれだけの存在だったのだ。
それならば、より絶望的な空間をますます絶望の色濃く塗り替えるために──言い換えれば絶対的な希望が誕生するための素地作りとしてその生を有意義に使うべきだろう。
その中で狛枝は一人の少年に目をつけた。
超高校級の生徒が集められたその中にいた普通の少年──それが苗木誠だった。
「超高校級の幸運」という才能を免罪符として学園への入学をゆるされた一般人。
彼は、ただ一人希望を絶やすことなくそこにいた。
日常、非日常、裁判の間──彼の目に灯る希望の光が消えることはなかったのだ。
五人目のクロとして処刑が決まった時、狛枝は震えた。落胆にではなく、歓喜で。
彼の瞳はクロとして処刑が決まって尚、輝いていた。
(ああ、あの瞳がほしい。絶望の中でも絶えず輝くあの希望の光が!)
結局、苗木は生きていた。そのことで益々狛枝にとっての苗木誠の存在が大きくなった。
彼は希望である。彼こそがこの絶望の中で花咲いた希望である。
できれば、あの空間にいたい。そして、彼の為に、彼が輝くための礎となりたい。手助けがしたい。
もう、狛枝には苗木誠しか見えていなかった。

コロシアイ学園生活は最後の裁判を迎えていた。
黒幕である少女──「超高校級の絶望」である江ノ島盾子。
彼女の絶望が、生き残った生徒を染めていく。希望が摘み取られていく。
しかし、狛枝は確信していた。あんな絶望に希望が負けるはずがないと。
──ただしく、苗木の言弾により、希望はよみがえった。
生徒たちを染めていた絶望をその希望の言弾が撃ち砕いていく。
望んでいた、いや、望んだ以上の存在がそこにあった。
求めていた希望の形を狛枝はそこに見たのだ。
そして、彼らは絶望に勝った。希望は絶望などに負けない──狛枝は自分の考えが真実であることを確信する。
──絶対的な絶望の中でこそ、絶対的な希望が輝くことも。
絶望の化身である彼女にさえ差し伸べられた救いの手──それを彼女自身は振り払い、絶望と共に死んでしまったが。
(彼の腕がほしい。あの絶対的な絶望にさえ差し伸べられる救いがほしい)

求めていた希望への渇望、欲求。
瞳がほしい、腕がほしい、彼の姿がみたい、彼が希望として輝いているところがみたい、彼の希望のための礎となりたい──それらはすべて、いつの間にか苗木誠自身への欲へと変わっていた。
彼にあいたい。
彼に触れたい。
彼にあいたい。
彼が──苗木誠が欲しい。
狛枝は考えた。どうすれば、彼に会えるだろうかと。
絶対的な希望は絶対的な絶望の中で生まれる。
それならば、希望である彼にあうためには、絶望であればいいのではないか──と。
狛枝にとってそれはとてもいい考えのように思えた。
自分自身が絶望になれば、彼は自分の前に現れる…しかし、生半可な絶望では足りない。
自分自身の幸運でも多分まだ足りないだろう。
だから、狛枝は思ったのだ。あの絶対的な彼女の一部を自分自身につければいいのだと。
そうして、狛枝は自分の左腕を切断し、江ノ島の左腕をつけることにしたのだ。
そして、待った──自分自身の幸運と彼女の絶望。これらがあれば、どのような形であれ、苗木誠といつかあえると信じて。

***

苗木を初めて見た時と同じような衝動を抱いたのは、自分の下に組み敷いた彼が果てた時だった。
その衝動──欲しい、という純粋な欲は、狛枝の性欲を煽り、結果未だ彼の胎内に入ったままの性器の体積が増す。
「…ぁ」
少しだけ漏れた彼の声にもっと聞きたい、と思ってしまう。
声だけじゃない。彼のものならなんでもほしい。
「ごめんね」
申し訳程度の謝罪で、再度動きはじめた狛枝を咎める声はない。
苗木はただただ狛枝から与えられる快楽に小さく喘いでいた。
「ね、声きかせて」
耳元で囁くと苗木は手で口を抑えながら首を左右に振る。
苗木はいつも声を出すまいとするのだが、狛枝にはそれが不満だった。
快楽に流されてしまえばいいのに、そう思いながら更に動きを激しくする。
(ボク以外なにも考えられなくなればいい)
粘膜の触れ合う音をさせながら突き上げ掻き回し、その度に小さな喘ぎ声が漏れる。
足りない、まだ足りない。
どんなに体を重ねようと、どんなに貪ろうと狛枝の欲が収まることはない。
もっと、もっとと貪欲に求めてしまう。足りなさすぎていっそ融けてしまえば楽かもしれないとさえ思った。
精を胎内に吐き出したあとに、いつのまにか苗木が気を失っていることに気がついた。
足りない、足りないと思って苗木の体を貪るあまり、気遣いを忘れてしまい苗木が気絶しているのは何も今回に限ったことではない。
そのことに対して、狛枝は次こそは優しく無理をさせないようにしたいと思っているのだが、今の所できた試しがない。
苗木を目の前にして、狛枝は自分の欲を抑えることができない──だから、欲求の儘に求めてしまう。
(…だって、本当は今だってほしい)
気を失っている苗木に対しても、その欲は収まることを知らない。
まだ繋がったままの下半身は、彼の胎内にいるというそれだけでまた硬度を増していく。
「ごめんね、」
意識がないと知っていても、声をかけたのは多分自分自身が許せないからだ。
そのまま、苗木の胎内に擦り付けるようにして快楽を求めて、最後には中から出して彼の腹部に精を放つ。
こびりついた精液とあちこちに散らばった鬱血の跡が酷く淫猥で、狛枝は泣きたくなった。


***

「ねぇ、苗木クン」
性行為の後処理を終えた狛枝は、寝台の上で眠る彼に話しかける。
きっちりと喉元まで止められた釦によって、鬱血の跡は見えない。
そのせいか、先ほどまでの淫猥な雰囲気はどこかへと霧消しており、まるで先ほどの性行為は夢だったのかと思うほどだ。
はじめてモニター上でみたときと殆ど変わらない幼い寝顔に触れようとしてやめる。
(自分なんかが触れたら汚れてしまう)
穢せない──何度も何度も組み敷いて貫いて、今更なくせに狛枝はそう思う。
体を重ねようと苗木は純粋なままだった──いっそ堕ちてしまったらとも思うのだけど。
綺麗なままの苗木に自分は救われている、そのはずなのにぼろぼろにしてしまいたいと思う。
絶望に負けない希望。それが苗木誠である。狛枝にとっての光で救いで、ずっとずっと求めていた希望。
瞳がほしい、腕がほしい。考えれば考えるほど欲望は尽きることはなかった。
言葉がほしい、体がほしい、心がほしい。
──結局「苗木誠」が欲しいのだと、そう気づいたのはいつだっただろうか。
希望がほしいと、そう思っていた。
そのために、いろいろなことをした。
(すべてがキミにあうためだったっていったら、キミはどう思うんだろう)
どう思ったとしてももう離れられないことぐらい、自分自身のことだ、わかっている。
たとえば苗木が離れようとしたとして、もうはなしてやることなんてできないことも。
希望を何よりも尊きものとしていながら、自分自身で貶めるという二律背反。
それすら、自分自身を騙すためのフェイクであったと。
(たぶん、もうわかってるんだ)
希望を愛しているといいながら、ずっとずっと彼に対する愛を叫んでいたことも。
それは、きっとあのとき──初めて彼を目にした瞬間から。


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