ふと見上げた月の形だとか。
海で見つけた貝殻だとか。
ロビーにおいてある通信機だとか。
以前彼が来た時に落としていったボタンだとか。
誰かが口にする彼の名だとか。
カレンダーについた定期連絡日の印だとか。
それが直接的なものであれ間接的なものであれ、どんなことからでも狛枝の思考の全ては結局たった一つ──狛枝にとっての絶対的な希望、救い、光…そして、希望ヶ峰学園における後輩であり友人であり、たった一人の愛おしい恋人である苗木誠へと収束する。
それこそ、ゲーム中のコロシアイ生活から目覚め記憶を取り戻し苗木と再会した日。
それから毎朝毎昼毎夜、日毎夜毎募る狛枝の苗木への想いと欲は尽きることなどなかった。
その捌け口の一つとなっていたのが友人である日向創への相談という名の惚気──基本、お人好しな日向は断れずに聞いていたのだ──なのだが、最近ではそれもぱったりと途絶えている。
今までの日向は、狛枝と苗木の関係を(若干引きつつも)見守ってくれていたのが、今では未来機関の苗木と同じ78期生の面々と一緒になって妨害を行うようになった。
それが、どうやら狛枝の脳内では「日向クンも苗木クンを好きになっちゃったんだね…苗木クンは「超高校級の希望」で年齢の割にちっちゃくて可愛くて可愛くてかっこいいけどやっぱり可愛くてキラキラ輝いてる幸運と希望に守られた天使だから日向クンが苗木クンのことを好きになっちゃったのはしょうがないけど今の所本当に烏滸がましいしこんな幸運絶対他にないってわかってるけど本当に夢かと思うぐらい幸せなことに苗木クンはボクの恋人っていってくれてるんだから日向クンが苗木クンのことをどんなに好きでもその想いは叶わないんだよ!あはははははははは!」ということになっているのだ。
日向にそれを突きつけた時は、一瞬目を泳がせた後に「それは違うぞ!」と言弾を当てられた。
日向曰く、狛枝の苗木への態度があまりにもセクハラ混じり、犯罪一歩手前、ストーカー予備軍で見ていられないから妨害をしているだけであって、もうちょっと節度とか時間帯とか人目とか状況とかそういうのも考えた上での交際ならば認める、とのことだった。
しかしながら、全ての事象が苗木へと帰結する狛枝に自重や抑制といった言葉は存在しなかった──少なくとも、苗木に関することにおいては。
よって、結局日向がどう言おうと妨害しようと、未来機関の面々からの様々な言葉や行動が狛枝へと降りかかろうと、日向がいうところの清らかな純同性交遊なんて狛枝にできるはずがなかったのだった。
捌け口の一つを失った狛枝の欲はあまりにも──それこそ、苗木がちょっとだけ引いてしまうほど(余談だが、ちょっと引くぐらいで済ませる苗木に対し日向は「天然ってすげぇ」と白旗をあげていた)──強すぎた。
その欲の強さは狛枝自身にとっても悩みの種であったのだが、うまく解消できる術などなかった。
そのために、些細な出来事で周りを振り回し、ドン引かせ、苗木をちょっとだけ引かせた挙句無体を強いてしまい、罪悪感を覚えるもののそれが解決されるわけではなくまた欲が積もっていくという悪循環に陥っていた。
会いたい、話したい、触れたい、キスしたい、抱きしめたい。
苗木のことを考えると、次々に湧いてくる欲に狛枝自身呆れてしまう。
苗木が選んでくれたという事実だけで幸せになっていたあの頃の自身が懐かしい。
今はもう、それだけじゃ足りない。
全部がほしい。
苗木誠の心も体も声も全て自分のものにしても多分まだ足りない。
果てることのない欲に振り回されるのは、多分狛枝自身もそうだ。
それでも、狛枝は苗木を求める。満たされないことを知りながら。
+++
その日はとてもキレイな月の日だった。
つい先ほどまで、狛枝たちはホテルのロビーにある通信機で苗木や霧切といった未来機関の面々と定期連絡という名の近況報告と雑談を行なっていた。
狛枝もいつものように、代表者である日向の横で苗木と話をした。
久々に見る苗木の姿は少しだけ痩せたようだった。大丈夫?と問いかけると、ちょっと仕事が忙しいんだ、と困ったような笑顔を浮かべていた。
狛枝の表情をみて、苗木は大丈夫だよ、と笑った。
その後、1時間程話した後次の連絡のことを告げ、モニターと音声はぷつんと切れた。
暫く日向やソニアなど、島の面々と話し、それぞれが自身のコテージへと戻る。
そして、狛枝が自分のコテージに帰り、シャワーでも浴びようと服を脱ごうとした時だった。
『狛枝クン』
あの時のちょっとだけ甘さを含んだ声が耳の奥に響く。
リフレインしたその声に、狛枝の身体はゾクリと震え、下肢に熱が集まった。
自身の下半身に目をうつすと明らかに体積の増えたソレが自己主張をしている。
この熱を収めないことにはもうどうしようもない。
日向という相談相手を失った狛枝にとって、もう一つの欲の晴らし方であり毎日の日課となりつつあるその行為はちょっとした罪悪感さえ抱いてしまうものだった。
しかし、少しでも欲を吐き出さないと結局苗木の負担になると悟ってから、その頻度は格段に上がった。
ヒドイ時など朝からしている。
それもこれも苗木クンが悪いんだ、あんなに可愛くて可愛いから!なんて狛枝は責任転嫁しているが、一番悪いのは狛枝の自重しない性欲まで含んだ欲望だろう。
狛枝は未だ乾いたままのシャワールームで、壁に背をつけて腰を下ろした。
そして、ズボンのチャックをおろし前をくつろげて自身を取り出し、もう既に勃ち上がっている陰茎を握りしめ、軽く上下に扱く。
思い浮かべるのは、さっき通信機越しにあった苗木の姿だ。
ちょっとだけ、痩せた身体。そのスーツの中身を想像しながら、上下に扱く手を速める。
薄いちょっとだけ肋の浮いた身体。あまり肉付きの良くないその華奢な身体に触れると、苗木は面白いように反応をかえしてくれる。
するりと肋沿いに指で触れるとくすぐったそうに身を捩って、真っ赤に染まった両手で顔を隠そうとするのだ。
狛枝は苗木が顔を赤らめて視線を外し声を殺そうとするのが不満で、そのまま苗木の乳首にかすめるように触れた。
びくりと苗木の身体は跳ね、小さな声があがる。その反応に気をよくした狛枝は、ちょっとだけ勃ち上がってきた乳首をこねたり押し潰したりして指先で弄ぶ。びくんびくんと反応する身体と甘さの混じってきた声。顔がよく見えないのが残念だが、まだまだ始まったばかりだ。
ゆるゆると触れる指をそのまま下へとすべらせる。
肋から腹、臍。
下肢の近くまできて、苗木自身に触れないままそのまわりの太腿や股関節を指でなぞる。
少しずつ勃ち上がってきている苗木の性器の先からは先走りの透明な液体が少しだけ出ていた。
乳首や臍、太腿や股関節、指先や足の爪先まで指を滑らせ、唇を落とし、舌を這わせるが、狛枝は苗木の陰茎には触れようとしなかった。
苗木はもう腕で顔を隠しておらず、涙で滲んだ瞳を狛枝へと向けていた。
『も、…むりだよ…』
泣きそうな声で懇願する。
それでも狛枝は苗木自身に触れることはない。ただ、優しく指先や舌先、唇で性器を除く全身にもどかしいような愛撫を続けるだけだ。
『狛枝クン…ッ』
甘さを含んだ声。
その声が耳奥で響く声とリンクした時、狛枝は握っていた陰茎から精液を吐き出した。
はぁはぁ、と息を整えながら、精液の絡んだ指を見て少しだけ広げると粘着的な白濁液が細い糸を引いた。
「苗木クン…」
自身の吐き出した精液を眺めながら、狛枝は遠くにいる恋人へと想いを馳せた。
(やっぱ生じゃないとなぁ…はやくあいたいなぁ…苗木クン…)
back