狛枝凪斗にとっての希望は、人の形をしている。

見つけたのは多分必然だった。
コロシアイ学園生活を生き残った六人のうちの一人。
「超高校級の希望」、苗木誠。

ずっとずっと見つめていた、彼女が入学したその時から。
同じ「超高校級の幸運」として入学した彼女を見た時に、狛枝は他の人とは違う特別なものを感じた──学園内のどの超高校級の才能を持つ生徒たちとも異なる、キラキラと輝くなにか。
前向きな意思と才能が生み出す絶対的な良きものを狛枝は「希望」と呼び愛したが、彼女のそれは、狛枝が思う「希望」とはどこか違うように思えた。
狛枝はその輝きがなんなのか、どこからくるのか知りたかった。しかしながら縁がなかったのだろう──結局、狛枝は彼女と直接的な接触をすることなく卒業した。

ほどなくして件の絶望的事件が起こり、その一環として希望ヶ峰学園の中で七八期生によるコロシアイ学園生活がはじまった。そこで狛枝はモニターに映る彼女をみて、あの時の輝きの正体を知った。
ずっとずっと求めていた絶対的な「希望」。今までみたどれよりも輝くキラキラとした宝物。絶対的な良きもの。
超高校級の生徒たちが殺しあうという絶望的な光景、絶望的な脚本。
その中において輝き続ける彼女は、まさしく「超高校級の希望」であった。

どんな絶望の中にあっても輝く希望に満ちた瞳。絶望にすら差し伸べられる救いの手。他の生徒を染めていた絶望を撃ち砕くコトダマ。絶望に侵されることなく希望を抱くその意思。
彼女はどんな絶望の中でも「希望」として輝き続けるだろう。どんな絶望が彼女を襲おうと負けはしないだろう。
どんな絶望にも負けない絶対的な「希望」、それは狛枝より一つ年下の少女だった。

その彼女が目の前にいる。目の前で、一人で笑っている。
欲しい、と思った。
「希望」が。
狛枝の求め、望み続けた「希望」がそこにあるのだ、──狛枝自身にその自覚はなかったが──絶望に侵された思考はただただすぐ近くにいる彼女を求めた。


***


「ああ、やっと起きた」
「…こまえだ、くん」
目覚めた視界に映る、誰か。
その誰かを認めた瞬間、苗木誠は自分自身に起こったことを思い出した。

苗木は狛枝が眠りからさめたときき、一人で島へと向かった。
どうせ誰かがいかねばならないのだ。多忙を極める中でも、その時苗木は比較的余裕があった。
だから行くと決めた──霧切や十神からは誰かと一緒に行けと言われたけれど、それすら聞かずに。
今になってみれば、彼等の懸念は正しかったのだろう。

病院には日向やソニア、九頭龍等と一緒に来たのだが、狛枝は眠っていた。
どうせ、彼から話をきくためにここに来たのだ。狛枝が起きるまで待っていると申し出て、彼の病室で待つことにした。
モニターで見ていた彼は希望や才能に依存、もしくは傾倒している節はあったものの、基本的には穏やかな人柄だと苗木は思っていた。
暫く待って、狛枝が目覚めた。ゆっくりと伸ばされた手を掴んで声をかけた瞬間、腹部に強い衝撃を感じた。
そして気づいたときにはここにいた。腹部の鈍い痛みから多分殴られたんだな、と今頃理解する。

「どうして」

理由がわからない。
そして、ここは、どこなのだろうか。
室内の様子からすると、先ほどいた病室とは異なる場所らしい。手も足も何かで繋がれている。動けない。
ベッドに縛り付けられた苗木の顔に自身の顔を近づけ、狛枝は至近距離でにっこりと笑う。

「ねえ苗木クン。話をしてもいいかな」

狛枝は苗木の疑問に答える気はないらしい。
こういう時、相手の要求には従っていた方がいいだろう。
そう判断して、苗木は小さく頷いた。

「ボクはね、希望を愛している。そういう意味では、バーチャル世界のコロシアイ生活だって別に悪いものじゃなかった。ボクはずっと考えてたんだ。コロシアイ生活という絶望的な空間で生まれる希望はどんなものなんだろう。誰が希望になるんだろう!ってね」
「…」
「だけど、希望だと信じた皆は絶望だった。…それを知ってボクは思ったんだ。ここで絶望の残党と呼ばれた皆を撃ち負かすことができたのなら、ボクも「希望」と呼ばれる存在になれるかもしれないって。結局ボクが思っていたように事は転ばなかったけどね。やっぱりボクが希望になるなんて夢でしかない」
「それはちがうよ。狛枝クン…誰だって希望に成り得るし、希望を持つことは出来るんだ。眠り続けていたキミが起きたことも、ボク達にとっては希望なんだよ」
「あははははは、キミはそういうだろうなって思ってたよ。…超高校級の希望であるキミにそういってもらえると…うん、すごく嬉しいな。…でもね、ボクは正真正銘の希望になりたい。希望を手にしたい。希望が欲しいんだ」

するりと右手で狛枝は苗木の頬を撫でる。冷たいその手は正真正銘狛枝凪斗本人のものだが、苗木はいつか同じように触れた少女のことを思い出す。
絶望を歌のように唇にのせ、だれよりも残酷に美しく哂い、絶望を愛した彼女は、希望と絶望の違いはあれど、今の狛枝と同じようなことを口にしていた。

「…こまえだくん」
「ねぇ、苗木クン。ボクは希望が欲しい。誰よりも何よりも輝く希望が欲しいんだ。ボクが知りうる限り最大の絶望は江ノ島盾子だ。それに撃ち勝ったキミこそ超高校級の希望。ボクが見つけた何よりも絶対的な希望だ」

頬に触れた手がどんどん下っていく。唇、喉、胸元──。

「だから、ボクはキミがほしい。キミという絶対的な希望が欲しい。そんなことをボクが望むなんて分不相応すぎて笑えるよね。だけど、全部を犠牲にしてもいいからボクのボクだけの希望を作れるのなら、それでもいいかなって思ったんだ」

その手が腹部に到達すると狛枝はその細く長い指で腹部を優しく撫でる。

「超高校級の希望が生み出す希望。キミという希望の中に生まれる希望はどれほど素晴らしいものなんだろう」

狛枝は苗木の上に覆いかぶさると、苗木の身に着けているジャケットとシャツに手をかけた。
やめてよ!と呼びかけるが、狛枝は聞いているのかいないのか、その声に反応することはない。
苗木はここにきてはじめて、後悔した。彼の才能は「幸運」だ。それも苗木のものとは違う本物の。
狛枝を制することもできず、抵抗することも意味を持たず、助けはきっと訪れない。
せめてもの抵抗として、目で訴えてみるが、自分の求める「希望」を追う狛枝がそれで止まるはずがなかった。

「苗木クン、ごめんね」

謝罪とともに、素肌が晒される。これからのことが想像できて、苗木はただ怖かった。
犯される──狛枝の口調、態度は穏やかだが、狛枝の狂気と欲に満ちた瞳が苗木に何を望んでいるのかを雄弁に語っていた。


***


組み敷いた彼女に口うつしで薬を与えた。
少しでも痛みを感じないように、辛い思いをさせないように。
狛枝は嬉しいのか悲しいのかわからなかった。
本当に望んでいたことがなんなのか。
希望が欲しかった。彼女が欲しかった?

ぐるぐると考えて考えて、たどり着いた結論は彼女の産み出す希望を手に入れること。
好きでもない男に犯されるという絶望の果てに生まれる希望は、狛枝にとっては多分何より絶対的な希望となるだろう。彼女にとっては絶望の塊かもしれないが。
しかし、きっとそれすら彼女は乗り越えるだろう──だって、彼女は「希望」だから。


素肌を晒した上半身に指を滑らせる。速攻性のある催淫剤はもう効果が出ているらしい、苗木は肌を触れられるたびに──やめて、いやという制止の言葉が殆どだったが──甘い声を漏らす。
薄く色づいた体も、甘さを含んだ声も、大きな瞳からぽろぽろと溢れる涙すら狛枝を煽る。
優しくしたい。愛をもって抱き合いたい。狛枝はそんな自分の思考を自嘲する。
自分のエゴで犯している少女に対して優しく慈しみたいなどと、許されるはずがない。抱き合うなどと、有り得るはずがない。
これはただの生殖行為だ。もっといえば暴力だ。
彼女に対してどんなに愛しさや思いやりを抱いていても、免罪符にさえならない。これは愛を確かめる行為ではないのだから。

もう抵抗はできないだろうと、足とベッドをつないでいた縄を切る。
少しだけついてしまった縄目の痕に指を這わせた。

「ごめんね苗木クン。キミの綺麗な肌に痕をつけちゃって」

心底申し訳なさそうに呟いて、狛枝はそこに舌を寄せた。
薬のせいで全身が性感帯となっている苗木にとってはその感覚すら快楽へと繋がる。
直接的でないそれは、ただ苗木を追い詰めるだけだった。
足首から、爪先へ。狛枝の舌は苗木の肌を犯していく。
ねとりとした唾液が苗木の肌を濡らしていた。

足指の先を口に含む。細いそれは力をいれれば噛み切れそうなほどだ。
噛み切って、それを腹に収める──いっその事それも悪くない、と思うけれどそれ以上に苗木の何かが損なわれるのが嫌だ。そう思って浮かんだ考えを即座に切り捨てた。
こんなにも辱めているのに、勝手なことを思うと狛枝は自分自身を嘲る。
指と指の間も丹念に舐める。もう片方も同様に。
そうして、唾液塗れになった足先と、蛇が這ったようなあとに、狛枝の欲はますます肥大する。

そのまま、手を上へと滑らせてするりとスカートの下に差し入れた。その瞬間、苗木の体はびくりとひときわ大きくはねる。
丁度クロッチ部分に触れるとそこはもう既に濡れていた。
催淫剤の効果か、これまで触れたことの生理的な反応か──多分その両方だろう。
遠慮もなく、スカートと下着を持っていたナイフで切り裂いた。露わになった下半身に苗木の顔色がさっと変わる。

「やめ」

震える声に、返事もせずに狛枝は切り裂いた布を取り去った。日に焼けていない白い太腿にごくりと喉が鳴る。

膝裏に手をあてて、足を割り開く。露出された秘部を見つめてほう、と息をついた。
直接そこに自分の指で触れる。下着越しとは違う感触にぞくぞくと背筋が震えるのがわかった。
制止の言葉は止むことはない。それでも、快楽からくる甘さがそこには確かにあったから、狛枝は小さく笑みを浮かべた。
勘違いしてしまいそうになる。彼女に求められているのだと。そうでないことを、狛枝はわかっていながら、耳に届く苗木の嬌声にただ酔っていた。
指で襞をなぞる。そのたびに苗木の華奢な身体がびくりびくりとはねる。

「可愛いね、苗木クン」

薬のせいで高められた感覚は、苗木に強い快楽を齎しているのだろう。同時に恐怖も。
初めて味わうだろう快楽に、苗木は抗いながらも流されている。
無理をするから辛いのだ。だから、もういっその事全てを委ねればいいとも思うけれど、苗木にそれができないということも狛枝はわかっていた。

「ココも、」

可愛いよ。そういって、狛枝は苗木の小さな陰核を摘んだ。
わかりやすい、直接的な快楽。さっきまでのものとは比べ物にならないほどのそれに、苗木は身体を強ばらせる。
同時に、両足をぴんと伸ばしたのをみて、狛枝は満足そうに笑った。

「苗木クンはどこも小さくて可愛いね」

狛枝の指が秘部から離れる。苗木がほっとしたのは一瞬で、次に与えられたのは冷たい指とは違う熱さだった。

「やめ、そ」

舌でその外陰に触れる。襞をなぞって、陰核へ。
鼻で感じる性的な匂いが、狛枝自身を昂らせる。未だズボンの中にあるそれは痛いくらいに体積を増していたけれど、まだ準備は終わってはいない。
狛枝はこの行為をただの暴力行為だと認識していたけれど、それでも出来うる限り苗木の負担を減らしてやりたいと思うぐらいには彼女のことを愛している。
だけど、この思いが報われないと狛枝は知っていた。伝えるつもりなど最初からなかった。寧ろ彼女が憎んでくれればいいとさえ思っている。
だからこそ狛枝はこのような凶行へ及んだ。彼女から与えられる好意全てと引き換えにしてでも、欲しい物があった。
それは多分、こんな卑怯で悪質な行為の果てにしか手に入れられないもの。

ねとりとした熱い舌先が苗木の秘部を蹂躙する。指で襞を左右に押し開くと、苗木の中心がひくひくと動いているのが見えた。
舌で舐ると、面白いほどに苗木は反応する。薬の影響だろうけれど、自分の愛撫で苗木が感じてくれているということが狛枝は嬉しかった。
まるでこれが愛の行為だと勘違いしてしまいそうになる。その錯覚すら、まるで薬物のように狛枝の脳内を侵し、欲望が溢れる。

苗木の秘部は狛枝の唾液と苗木の愛液が混ざり合って十分に潤っていた。それを見て、今すぐにでも狛枝はその狭い入口に怒張した自身を押し込んでぐちゃぐちゃにしてしまいたいという思いを抱く。
指でそっとなぞり、刺激を与える。奥から出てくる苗木の体液が指を濡らしていく。つぷり、と差し入れると面白いように彼女の細い身体がはねる。
ぬらりと濡れている秘部は、狛枝の指を抵抗もなく飲み込んだ。二本、三本と指を埋めて掻き回す。
部屋には、ぐちゃぐちゃという卑猥な水音と苗木の喘ぎ、時折漏れる狛枝の息遣いだけが響く。
苗木の顔は涙と涎でぐちゃぐちゃに濡れていた。それでも、まだ快楽に流されまいとするその強い瞳に狛枝の欲は煽られる。
我慢ができなくなって、狛枝は自身を取り出す。もう十分に張り詰めているそれをみた瞬間に苗木の顔に浮かんだのは紛れもない恐怖だった。

狛枝は何も言わずに微笑んで、それを苗木の秘部に当てた。やめて、という苗木の声は聞こえていたけれど、ここまで来て止まれるはずがなかった。
暖かな胎内が狛枝を拒むことはなかった。きっと誰にも犯されたことのないだろうそこは狭かったけれど、十分な量の体液が狛枝の侵入を助けてくれる。
躊躇いもなく、奥まで突き入れる。締め付ける肉の感触は狛枝の欲を肥大させるだけだった。
胎内で体積を増やした狛枝自身に圧迫されたのか、空気を求めるように苗木の口がはくはくと動く。
それを塞ぐように狛枝は苗木の小さな唇に噛み付くようにして口付けた。小さく開いた唇に舌をねじいれて、荒々しく腔内を犯す。
触れ合った箇所からとけてしまいそうだと思う程の熱さ。くらくらするような酩酊感。
触れ合う舌、零れる唾液も包み込むような苗木の胎内もそこに溢れる愛液も全て自分のものにしたかった。
溢れる欲は止まらない。衝動の儘に細い身体を突き動かす。漏れる声は甘く、淫靡で狛枝を誘う。
胎内に精を吐き出したあと、ふと苗木と目があった。そこにどんな感情が浮かんでいたとしても、受け入れるつもりだった。それだけのことを狛枝はした。
怒り、悲しみ、憎しみ、蔑み──けれど、苗木の浮かべた表情は狛枝の思い浮かべたどれとも違う、色をしていた。
苗木は喘ぐように呟いて、小さな笑みを浮かべ、そしてそのまま瞳を閉じた。

「ああ、そ、っか」

──唐突に気付く。本当に欲しかったもの。求めていたこと。

小さく華奢な身体をぎゅっと抱きしめる。苗木の身体はどこに触れても温かく、心地いい。
この胎内にはいれたら、どれだけ幸せなことだろう。彼女の中で愛され、同じ血を巡らせて、ただ眠って。
無条件で彼女に愛される存在。彼女を一番近くに感じられる存在。

「希望」になりたかった。なれないと知っていた。
愛されたいと思っていた。愛されないとわかっていた。

だからこそ、狛枝は、苗木に産んで欲しかった。
『超高校級の希望』苗木誠の子供として、生を受けたかった。

それが出来ないのはわかっていたからせめて、彼女が産み出す「希望」が欲しかった。だから作ろうと思った。だから狛枝は苗木を抱いた。
けれど、彼女に触れ胎内に自身を埋めた時。そして彼女が最後に微笑んだ時。本当に欲しかったものが何か、理解ってしまった。

「…すきなんだ、」

愛されないと知っている。報われないと知っている。
あの頃、彼女と直接的な交流を持たなかったのは、近づくのが怖かったからだ。自分の「幸運」が彼女の光を脅かしてしまうことが恐ろしかったからだ。
だけど、諦めたふりをして本当はずっと求めていた。彼女が欲しかった。それだけだった。
穢したくないと思いながら、きっとこんなふうに犯してしまいたいと望んでいた。
ぞっとするようなそんな欲望を直視できなくて、ずっと誤魔化していたけれど。

どんな形でもいい、狛枝凪斗は苗木誠に愛されたかった。ただ、それだけだということを。





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