+たとえ話をしよう+



ねえ、日向クン。仮定の話をしてもいいかい? たとえば、たとえばだよ。 キミがボクのことを好きだとする。 …ああ、他意はないんだ。仮定の話だからね。 ボクは多分嬉しい、とかそういうことの前に、これによってどんなことが降り掛かってくるかをまず考えるんだ。 ボクは日向クンのことが嫌いじゃない。寧ろ割と親近感みたいなものをもってるから、好意を持ってることは間違いない。だから不幸か幸運かって言われたら幸運だと思うよ。でもね、日向クンと今、じゃあね、っていって別れた後にけがをしてしまう。それは多分ボク自身の幸運の代償だと思う。つまり、キミに好きだよっていってもらうことによって訪れる不幸はボクがけがをして終わるってぐらいのものだっていうこと。…え、回りくどい?じゃあまあいいかたを変えようか。つまるところ、日向クンからの好意という幸運とボクがけがをするっていう不幸が当価値だっていうこと。別にキミの存在を軽んじてるわけじゃないよ。でもね、キミからの好意とキミの怪我が当価値でないぐらいには…そうだね、そういうことだね。要するにボクはキミに親近感を持っている。だから嫌悪か好意かっていうとそれは好意に値する。だけど、キミが怪我をしたって聞いたとしても、多分自分自身が怪我をするという以上に不幸だとは思わないんだ。だからね、きみから向けられた好意を純粋に喜べないかな。まあ、それが恋愛感情もはらんだ好意であったのなら、それなりに仲のよかった友人を一人失うってことでチャラになる、かな。…そう?かなしい?かわいそう?なんで?他人との関わりを避けてる?あんまり近づきたくないんだろうって?…うん、多分そうなんじゃないかな。もうずっとそういうものだったから。自分の幸運の代償として相手が傷つかないためには、その相手を特別と思わなければいい。大きな幸運の代償としてその特別な相手の何かが奪われたり傷ついたりするのはもう見たくない。特別な人間は作りたくないんだ。なに?じゃああの人はどうなるのかって?…そう、だね。特別っていってもあの人のことをボクは好きなわけじゃないから。ボクはあの人を見てたわけじゃない。あの人の絶望をみることで、そのむこうがわにある希望をみてたんだから。…苗木クン?苗木クンは大丈夫だよ。あの子は超高校級の希望で幸運だよ。キミみたいな人工物の希望なんかじゃない。そして、ボクのクソみたいな幸運なんかじゃない、本当の希望、本当の幸運。そんなあの子がボクのことをすきになるなんて、あるわけがないじゃないか。…え、そういう意味じゃない?…うん、うん…。本当に、本当にこんなことを考えるだけでおこがましいってわかってるよ。だけど、…うん、そうだね。たとえば、本当にたとえばのはなしだよ。苗木クンがボクに大して何らかの好意…じゃなくてもいい、苗木クン自身の感情をボクに向けたとしたら。ボクはね、それがたとえどんなちっぽけなものでも、同情でも、なんでもいいよ。本当に、なんでもいいんだ。憎しみとか軽蔑でもいい。それが苗木クン自身の感情であるならば、ボクはそれに縋る。手放したくないって思う。何でもいい。苗木クンがボクをみてくれるのなら。それで、ボクが死んだとしても本望だと思うんだ。…きっと、その代償が下るとしたら、ボク自身だから。苗木クンにボクの幸運の代償が振りかかるとは思えないしね。だって、あの子は超高校級の幸運だ。…え、なに。日向クン。本当のことをいえって?本当だよ。ボクの本心だよ。苗木クンがボクの存在をそこにみとめてくれるなら、しんでもいい。偽ることない本心だ。…。……。わかったよ。ありえないことだけどね、もしも、もしも、苗木クンが好意を寄せてくれるなら。あの子の、一番特別が、欲しい。そんな幸運のその代償が何で贖われるかなんて、わかりきってる。その前に、そんな幸運が有り得ないこともわかってるよ。でも、たとえばなしだからね。単なる夢物語だと思って、聞き流して欲しい。苗木クンの特別が貰えたら。…それは、ボクのおもいが受け入れてもらえたことと同義だ。ボク自身の最大の幸運だ。ボクは信じてもいない神を崇めるだろうし、すぐに死んだとしてもそれは当然だと思う。だけどね、それでも、ボクだってその先のもっと大きな幸運をみたい。苗木クンの傍にいたい。苗木クンの希望に触れていたい。苗木クンに触れていたい。…これで満足?おこがましいのはわかってる。でも、ボクは、苗木クンが…、苗木クンのことが…。…なに、まだ何かあるの?え、…え?


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