時間は丁度十一時頃。昼食時間まではまた暫くある。そんな時間に、ボクはここ、保健室にいた。
その理由を説明するとそれなりに長くなるのだけれど、端的にいうのならば"どこからともなく飛んできた硬球が頭に当たって倒れた"というところだろうか。
その説明を保健医から聞いたのが一時間ほど前。頭を打ってるからと安静に、という注意と共にお昼すぎまで外出しなければならないからと留守をいいつけられたのも同じ時。
もし部屋で寝てたければ鍵を締めて帰ってもいいよと言われてはいたけれど、ここにいるのも、部屋にいるのも対して代わりはなかったので留守役に甘んじていた。
それからボクはただひたすらだらだらと無為な時間をここで過ごしている。
考えることといったら、この"不運"に対する"幸運"がどういうものか、というものだった。
頭は痛いし、暇だし。授業をサボれるのは別に嬉しいというわけじゃない。
それならば、それ以外のボクにとって素晴らしい"幸運"がきっとこれから訪れるだろう。

けれど、ボクが考えていた"幸運"は実はたった一つだけだった。
それが訪れて、そこからどうなるかはボクにはわからないけれど。
ただ、最近のアレコレを考えてもきっと悪いようにはならないだろう。寧ろ、とても素晴らしいことが起こるような気がしていた。

ベッドに横になってあれこれ考えているとぱたりぱたりと足音が聞こえてきた。
それを聞いた瞬間に、ボクはむくりと身体を起こす。
ボクの視線がドアへと向かうのとほぼ同時にそれは開かれた。

「失礼しま……あれ」
狛枝クン?と不思議そうに扉をあけた彼──苗木クンは小首を傾げる。
その仕草がどうにも小動物めいていて思わず抱きしめたくなったけれど、吃驚させて逃げられたらそれはとても悲しいことだから今のところは自重する。
これから先の幸運をみすみす逃がすなんて、そんな勿体ないことを出来るはずもない。
そして、狛枝クンどうしたの、という問い掛けに、曖昧な笑みで誤魔化して同じような問い掛けで返した。
そこに座りなよ、というと苗木クンはボクの近くの椅子へとひょこひょこ近づき、腰掛ける。
「苗木クンはどうしたの?」
そう、問いかけると苗木クンは眉を下げて、これ、とちょっと足を上げてハーフパンツから見える膝を指さす。
砂を洗った水と血液が混ざったもので濡れていた。血はまだ止まっていないのだろう、足を伝ってくるそれを苗木クンは持っているティッシュで拭き取っている。

「先生いない……みたい……だね」
うわ……どうしよ、とポツリ呟いた苗木クンにボクは少しだけ考えた後でにっこりと笑った。
「ボクに手当させてよ」
「は?」
その顔はまさに鳩が豆鉄砲を食らったような、という比喩がとても似合う、そんな顔だった。
「ボクなんかじゃいやかもしれないけど、でも苗木クンのそれそのままにはしておけないから」
ね、と笑うと苗木クンは迷うような色をその瞳にのせた。
「……い、いいのかな?」
心配しているのは、多分薬品とか道具を勝手に使っていいのだろうか、ということだろうか。
誰も居ない時にボクはよく勝手に使わせて貰っているから、多分大丈夫なんだろう。
「平気平気。なんだったらあとから罪木さんに言っておくから」
ついでに、『超高校級の保健委員』である罪木さんの名前まで出すと苗木クンは納得したのかどうなのか、とりあえずは小さく頷いてくれた。
「……じゃあ、お願いします」


苗木クンをボクが寝ていたベッドに座らせる。
傷口の血を拭きとって患部を見てみると大分広い範囲で擦りむいていて、進行形でじわりじわりと血が滲んでいく。
「結構痛そうだね……」
「ひりひりする……」
ちょんちょんと血をティッシュで拭う苗木クンの痛みを堪える顔。
それがボクの体温を少しだけ上げていく。けれど、一人で盛ってもしょうがない。落ち着け、と心の中で呟く。
「何してたの?また転んじゃったとか?」
「こんな酷いと思ってなくって……洗ったら結構傷大きくて……血は止まらないし……」
溜息をついた苗木クンの言葉に、だから一人だったのか、とやっと合点がいった。
これだけの怪我だったらあの過保護なメンバーの一人は確実に保健室についてこようとする。
けれど、水で流せば大丈夫かな、ぐらいの怪我だと思ったから一人で平気だと苗木クンが言ったのだろう。
「舐めとけば治るかなって」
そういった苗木クンの言葉に従ってボクは丁度滲んで流れだした血をべろんと舌で舐めた。
鉄臭い。苗木クンの血だけれど、まあ血は血だから。と一人納得する。
でも更に血は溢れてくるし、苗木クンの一部を無駄になんてしたくなくてボクはそれを舌で綺麗に舐め続ける。
この血も苗木クンの一部でそれをボクの体内に入れているのだと考えると、それはそれで興奮する。
「なにするのっ?!」
あわあわと、焦ったような苗木クンにボクは顔を上げてしれっと答えた。
「え、血が流れてきたから苗木クンの──」
「言わなくていいから!」
「消毒代わり──」
「自分で!あとかすり傷程度だったら!ってことだから!!」
舐めなくていいから!そんな、叫びにも似た苗木クンの主張を聞いて、ボクはとりあえずその意見に従う。
けれど、一言言わせてもらおう。
「ねえ、苗木クン」
保健室ではお静かに、
ね、と囁けば苗木クンは顔を真赤にして口を噤んだ。
だけど、その表情が、どうにもあの時を想起させる。これまでのあれこれで、こんなにも欲が起こっているのに。
決壊するまで、多分もう少し。
けれど、それを表には出さずに、ボクは笑う。
「じゃあ、ちゃんと消毒液持ってくるからさ」

改めて、消毒液で消毒をして、ガーゼを当てる。
その上から真っ白な包帯を巻けば終了だ。
「やっぱ狛枝クン包帯の扱い上手だね」
「まあ怪我が多いしね」
くるりくるりとボクは慣れた手つきで包帯を苗木クンの膝に巻いていく。
それを感心したように、苗木クンは見つめていた。
そのきらきらした表情がとても可愛くて。ああもう限界だ、なんてそんな事を考えていた。
包帯の端を止めて、鋏で切断する。そしてそれらの道具を苗木クンの傍に放る。
「ありがと──」
ベッドに座ったまま、膝を曲げたり伸ばしたりしていた苗木クンをとん、とそのまま後ろへと押し倒す。
ぱちぱちと大きな目を瞬かせな苗木クンはボクのしていることに気付いて、さっと顔色を変えた。
「っ、どこ触って」
「え、太腿」
ハーフパンツの隙間から手を差し入れる。すべすべした太腿はいつだって触り心地がいい。
「やめ、」
苗木クンの否定の言葉なんて聞きたくなくてボクはその唇を無理やり奪う。
舌を挿し入れてその腔内を荒らす。静かな室内で、耳に届く粘着音はなんとも卑猥で自分でしていることなのに、更に欲が高まっていく。
その腔内を暫く楽しんだ後、互いの唾液が糸のように繋がって、切れる。
それを舐めとって、そのまま首筋へと舌を這わせた。
「こ、」
こまえだくん、と苗木クンの囁きが耳に届く。同時に、ボクから離れようとするかのように、その手はボクを押していた。
一つ、溜息をつくと苗木クンの強ばっていた身体から力が抜ける。その時に苗木クンの両腕をひとまとめにしてさっき傍に放った包帯をぐるりぐるりと巻き付ける。
「ちょ、」
慌てたような、苗木クンの声。焦ったようなその顔に起こるのは嗜虐心だ。
ボクはにっこり笑って目の前で呟く。
「声、漏れちゃうよ?いいの?」
「っ……!」
包帯でまとめた腕をそのままベッドへと括りつける。これで、もう苗木クンがボクを拒絶することはできない。
ふふふ、と笑いながらボクは苗木クンの体操服を下から捲り上げて胸元へと唇を近づけた。
痕を付ける。シャツの一番上までボタンをしていればぎりぎり隠れるそんなところにたくさん、たくさん。
紅い痕。前のも消えかけた頃だったから丁度いい。
「やめ、」
体育の時とか、他の人に見られるのが困るって苗木クンは言ったけれど、そんな所を見せる苗木クンが悪いよね。
苗木クンがボクのものだという証になるのなら、別に見せてもいい。寧ろその痕を公開してまわりたい。
「我慢してね、声だすと誰が来るかわからないし」
右手の指で胸元を撫でる。くるりくるりと円をかくように中心部へと近づけて、そして指先でそっと掠めると苗木クンは堪えるようにぎゅっと身体に力を込めた。
声を漏らさないようにしているのだろう。塞ぐ手も今は使えない。
我慢して、と苗木クンにはいったけれど、そんな風に声を出すまいと必死に堪える苗木クンの姿を見たくて。ボクは少しだけ荒々しく乳首を摘んだ。
「あっ、んぅ……っ!」
一瞬、高い声が上がって、けれど苗木クンはすぐに唇を噛み締めることでそれを抑える。
「かわいい、ねえ苗木クン、凄く可愛いよ」
囁きながら、胸へ対する攻め手を抑えることはない。
快楽に流されたいのに、流されまいと抗う苗木クン。お昼からこんな可愛い苗木クンの姿が見られるなんて、ここ最近の不運でもお釣りが来そうだとボクは思った。
さあ、これからどうしようか、と思った時。
高いチャイムの音がなった。
ぱっと手を離す。お昼のチャイムが鳴ったということは、つまり授業が終わったということ。
さっきまでだってその危険性はあったのだけれど、これからはそれ以上に誰か来る可能性は高い。
「……続きは、」
どうしよっか。
そう、口端を歪めて耳元で囁くと、さっきより、ずっとずっと顔を真赤にした苗木クンは泣きそうなそんな表情でふるふると身体を震わせている。
苗木クンもわかっている。これ以上ここで事を続けるのは危ないってこと。
けれど、中途半端に上がってしまった熱はどうしようもないから、やめる、なんて口には出来ないのだろう。
ボクの性格を苗木クンはよくわかっている。だからこそ、何も言えなくて、だけど上がってしまった体温はどうしようもなくって、きっと頭はぐるぐるしているに違いない。
可愛い。可愛い。ボクとしては、ここでそのまま致してしまったってなんの問題もない。誰かに見られるというのなら、見せつけてやればいいのだ。
けれど、苗木クンはそれができない。できないから、迷う。
でも、苗木クンは快楽に弱い。とても、とても弱くてそこがまた可愛らしいのだけれども。
はあ、と暑い息を吐いた苗木クンにボクはまた耳元で囁いた。
「……やめる?」
びくん、と身体が震える。きゅっと苗木クンは唇を引き結ぶ。
じっと見つめるその目には確かに熱がある。欲に染まった、綺麗な瞳。
くすくすと笑って、ボクは苗木クンの蟀谷に口付けた。

「別のとこ、いこっか」

ボクがそういうと、苗木クンはこくんと小さく頷いた。



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