「なんでボクなの…?」
ボクは思わず呟いた。おかしいじゃないかと。
ただ、ちょっときて、と言われて霧切さんと舞園さんに連れてこられた先がここだ。
なにこれ。
そう思わず呟いたけど、誰も返事をしてくれない。周りにこんなに人がいるのにスルーされて少しだけ悲しくなる。
「苗木くん、連れてきましたよ」
にこにこと笑う舞園さんといつもの表情をしている霧切さんに後ろを固められているため逃げられない。もっといえば、その手が肩に乗っている。益々逃げられない。
ここが教室とかだったら、逃げようとは思わない。女の子に囲まれている、というのは照れくさいけれどちょっと嬉しいかなって思う。
だけどそれはあくまで普通の状況でだ。この空気の中でそれを喜べるほどボクは精神が図太くなかった。

一つ、空いていた席に座るよう促される。拒絶などできないその状況にボクはどうにかして理解しようと頑張って頭を回転させていた。

正面には学園長。
そんなに交流があるわけではないけれど、優しい言葉をかけて貰ったことが何度かある。
霧切さんのお父さんってのを偶然知った後はちょこちょこ声をかけられる。そんな時、学園長は霧切さんが大事なんだなぁってボクは凄く思ってる。
そして、右手には『超高校級のギャンブラー』セレスさん。
彼女は同級生で、ちょっと面倒臭い一面もあるけれど、中身は優しい人だ。それなりに友好的な関係を築いているはず。うん、多分。
反対側の、左手には『超高校級の幸運』狛枝クン。
年がひとつ上、期もひとつ上だけど、同じ『超高校級の幸運』という名で呼ばれていることあって仲良くしている。たまに距離近すぎてあれ?とも思うけど、大事な友達の一人だ。
全員知らない人ではない。
問題なのは、彼らが三人そこにいてボクがそこに入ることと、彼らが囲むそれだった。
「…なんで麻雀…?」
麻雀をしたことがないわけじゃない。でも、それも希望ヶ峰学園に来て覚えた程度。
特に強いわけではないし、ルールは覚えたものの詳しいことまでは知らない。
役だって全部覚えちゃいないけど、大体隣に座っている狛枝クンが教えてくれるから一応ゲームとしてはできるっていうそれだけ。
この間はじめて一着であがれた。嬉しかったけど、それを報告したらなんか凄い騒ぎになっていた。
どうしたの?って聞いたら狛枝クンは凄いね!としか言ってくれなかった。にこにこわらってぎゅうぎゅう抱き締められて、ボクは普通の会話をすることを諦めた。
他の人に聞いたらどうやらその時に出した役が凄かったみたいだけれども、結局ただの運だろう。
それまで四着だったのだから、決して強いとはいえないと思う。
でも状況からすると多分この三人にボクが混ざれって言われてるんだよね。ムリだよね!普通に考えてさ!
『超高校級のギャンブラー』と『超高校級の幸運』に希望ヶ峰学園長。
幸運っていわれてても中身は普通の一般人。幸運というより『超高校級の不運』のほうがあってるかもね、と言われる身分としては本当全力で逃げ出したい。
「この間、勝負した時苗木クンが一着だったじゃない?」
にこにことしながら狛枝クンが口を開いた。ボクがさっき思い出していたものと同じことを考えていたらしい。
そうだよね、狛枝クンは覚えてるよね。忘れないよね。その笑顔を見ているうちにその時のことが頭の中に蘇った。
嬉しかったのは確かだけれど、その後のことがよろしくない。遊び一つで勝っただけでどうしてこう騒がれたのか、ボクは今でもよくわかっていない。
「わたくしは、『超高校級のギャンブラー』としてギャンブルと名のつくもので一番にならなければならないのです」
「つまり、安ひ──」
「セレスティア・ルーベンブルグですわ、舞園さん」
「狛枝さんに勝ったことがないというわけです」
セレスさんとそれを補足する舞園さんの言葉で少しだけ納得する。
つまるところ、セレスさんが狛枝クンに勝てないからこの勝負をするってことだよね。リベンジマッチ?ってやつかな、これも。
「でもそれにボクがなんの関係があるっていうのさ」
「他の人が誰も入りたがらないから、そこの人と苗木クンに白羽の矢がたったというわけ」
ここまでいえばわかるわね。やっぱり霧切さんはいつもの口癖をいって、答えをくれない。
「ボクに勝ったことがあるのがこの学園では苗木クンだけってのもあるかな」
どうせやるなら苗木クンと一緒がいいなぁってボクが言ったんだよ。と嬉しそうな狛枝クンにボクはなんていえばいいのかわからなくってとりあえず笑ってみた。
「大丈夫、わからなかったらボクがいつものように教えるからね」
「大丈夫です。私もそれなりにわかっているので、狛枝先輩は自分のことだけ考えていてくださいね」
笑う狛枝クンに、舞園さんが釘を刺す。
「…舞園さん麻雀わかるの?」
「ええ、交友範囲広いので。あと勝負をするのは苗木くん自身ですから」
「その、そろそろはじめようか…人数も揃ったことだし」
笑い合う二人の空気が怪しくなってきたところで、学園長が止めに入った。
表には出さないけれど、心のなかでありがとうございます、と頭を下げる。
「まあ、楽しくしよう」
笑顔をうかべた学園長に、ボクも思い直す。
理由がどうであれ、ゲームだと思えばいいんだ。
学園長がいるんだから、賭けにはならないだろうし。身包み剥がされるとかそんなこともないだろう。
負けても特に支障はないはず。そう考えたら少しだけ気が楽になった。
セレスさんとは何度か、狛枝クンとは何度も。学園長とははじめてだ。
強くはないけど、楽しくないわけじゃない。よし、と小さく気合を入れた。
「そうだね、ボクも頑張る…頑張ります」
「楽しく出来ればいいね」
「そうですわね」
少しの緊張感と不安を残したまま、学園長は手に持っていたサイコロを転がした。


第一局 親 セレス



まずはセレスさんが親だ。
今日のゲームは一回親が回ればおわり、だからボクが親のときが最後だ。ううん、とりあえず飛ばされないようにがんばろう。
ことん、ことんと牌を出していく。さっき出したの間違ったかなぁ、なんて考えながら。
本当はセレスさんとか狛枝クンとかの出した牌もちゃんと見てないといけないんだろう。でもボクはそれを考える余裕なんてない。
どうしようかな、って考えてるうちにボクの番が回ってきて、それを出してもまた次の番。
セレスさんも狛枝クンも学園長も凄いなぁって思う。話しながら自分の牌をみて、前に捨てた牌も見る。
なんでそんな同時進行でできるんだろう。
話にあまり入れないままボクはただボクの前に並ぶ牌とにらめっこだ。
…あれ、これ、リーチかけられるかな。かけられるよね。ううん、と悩んでいたけれど、もう残り回数が少ないことに気がついてやめる。
リーチをかけて、上がれればいいけれど、上がれなければ損するだけ、のはず。
ぱぱ、と皆の捨てた牌を眺めると、ボクが欲しかった牌はもう二つ出ていた。
残り二つ。多分でないんだろうな、と思いながらボクはまた来る牌をことんことんと出していった。

結果としては、結局出なかった。でも、他の人達も上がれなかったみたいで流局になった。
一応テンパイは出来てたからよかった、とほっとしてたら狛枝クンとセレスさんは二人共学園長へ手を出していた。
「はい、点棒をくださいな」
ミルクティーを飲んで余裕そうなセレスさんとにこにこしている狛枝クン。
そしてああああと頭を抱えている学園長を見ていたらなんか楽しくなってきた。
「苗木くんよかったわね」
「点数貰えてよかったですね」

一本場

またセレスさんの親。
配られた牌の中身はなんか中途半端。
揃ってないわけじゃないから、難しい。悩んで悩んで切ったものが次にきたりなんかしたらもうどうすればいい。
ううんううん、と悩んでいるとセレスさんがくす、と笑った。
「リーチ!」
声高らかにセレスさんが宣言する。
ボクの番。引いた牌はいらないものだった。
出てる牌の少なさに、どうかこれがセレスさんの当たり牌じゃありませんように!と思って手放す。
何事も無くセレスさんが次の牌を引いてほっとした瞬間に、かたん、と牌を置く音がした。
「立直一発ツモ、一通で4200オールですわ」
嬉しそうに笑うセレスさん。流石というかなんというか。
「…今日は、普通に勝負するんだね」
「あら、わたくしはいつでも真剣勝負ですわよ」
にこにこにこにこ。笑顔が怖い。

ニ本場

三回目のセレスさんの親だ。やっぱりあまりいい並びじゃない。
ううん、と悩みながらことん、と出した。そうしたらすぐにセレスさんが牌を切る。
調子がよさそうな感じだ。確かにまだ二回だけど一度もセレスさんは点数が減ってない。
セレスさんは余裕の表情でミルクティーのおかわりを山田クンにいいつけていた。
「流石『超高校級のギャンブラー』だね」
「当然ですわ」
ボクの正直な感想に、セレスさんが微笑む。
「リーチ!」
学園長がリーチをかける。そして、狛枝クンが牌を引く。
ボクが引いて、セレスさんが少しだけ悩んでその牌を出した時だった。
「はい、ドラ翻牌混一色、セレスさん」
宣言と同時に牌が開く。緑で染まったそれの点数はどのくらいだろうか。
さっきと同じように狛枝クンはセレスさんへと手を出す。悔しそうな顔でセレスさんは点棒を渡した。
「…本当あなたの思考は不可解ですわ…どうしてそれ切ってその待になるんですの」
「え?なんかこっちのほうが来る気がしたんだ。あとはまあ癖だよね」


第二局 親 霧切仁

三つずつ、三つずつ。うん今度は割と揃ってる気がする。
でもこんな時になって、誰かが上がったりするからあまり喜んではいられないのだけど。
引いた牌。それで一応準備ができた。三つずつ。赤いのがあるから、多分それなりの点数がいく、はず。
二回目のテンパイ。
「リーチ、だよ!」
通るかな、どうかな、と思いながらそう宣言すると、狛枝クンがくすりと笑って大丈夫、通るよ、と言ってくれた。
ほっとしながらまた順番がまわる。もうリーチをかけちゃったから何も考えないで出すだけ。
「じゃあボクもリーチ」
狛枝クンがかけたリーチ。それを見て、セレスさんと学園長の顔が少しだけ真剣になった。
「ほら、苗木クンの番だよ」
にこりと笑って、狛枝クンがボクの手元を指さした。
出来れば狛枝クンの上がり牌は引きたくない。でも引いちゃいそう。
まだ点数に余裕はだいぶあるから飛ばされることなんてないけれど、狛枝クンだもんなぁ…。
はじめて一着取れるかなって思った時にごめんね、っていって落とされたこともあったっけ。
ううん、と思いながら牌を引く。もうなるようになれだよね!と思って、その表面を見た。
ボクの待っていた牌じゃない。できればこれが狛枝クンの上がり牌でありませんように、と思いながら前にだした。
「大丈夫、それじゃないよ」
ボクの心配事を全部わかっているような顔で狛枝クンはいう。
とりあえず、よかったと思って一息ついた。セレスさん、学園長、と牌を引く。
学園長のそれが置かれた瞬間に、ぽん、と舞園さんがボクの肩を叩いた。
そっと小さな声で教えてくれる。
「わ、苗木クンやりましたね!リーチドラ1で三暗刻」
そこに置かれた牌は確かにボクがずっと待っていたもの。
ぱらぱらと牌を開示して、ボクは舞園さんの言った言葉を繰り返す。
「リーチ、ドラと、あと三暗刻」
ボクの手配を見て、学園長は肩を落とした。セレスさんも驚いた顔をして、狛枝クンはにこにこと笑っている。
「結構高めの手だったから残念かな」
ぱら、と晒されたそれは結構なんてものじゃなかった。ボクでも知ってるぐらいの凄い並び方。
「うん、でも振り込まなかったからよかったな」
にこと笑っておめでとう、といってくれたけど、ボクはちょっとそれどころじゃなかった。
よかったな、とは思うけどリーチかけた時にちょっと運が悪ければ狛枝クンは上がっていたわけで。
更にいうとそれをボクが出してた場合はその時点でゲームもおしまいだ。
「…さすがというかなんというか」
「本当歪みないわね」



第三局 親 狛枝凪斗



狛枝クンの親番。相変わらずいい手はこない。
いらないかなぁ、どうかなぁ…とりあえず、教えられた通りに三つずつのグループを作るように心がける。
役を全部覚えてるわけじゃないから、とりあえず基本を。あんまり鳴かない。三つずつ。揃ったらリーチ。

「カン」
セレスさんがそう宣言して、牌を引こうとする。
彼女の表情からは多分それなりの手が来ているだろうという予測がついた。
現在の彼女の順位は一位だけれども、『超高校級のギャンブラー』にしてはその得点はちょっと低いかもしれない。
学園長の点数が一人落ち込んでいる他は、ボクもセレスさんも狛枝クンも大して変わらない。
す、とセレスさんの指が牌を触れようとした瞬間に、狛枝クンがそれを止めるように口を開いた。
「ごめんね、ボクなんかが烏滸がましいと思うんだけど」
その声にセレスさんの指が止まる。嫌そうな表情を浮かべて、狛枝クンに視線を向けた。
そんなセレスさんを気にしない、全く悪びれない表情で狛枝クンは笑った。ぱらぱらぱらと牌を開く。
「はい、槍槓」
「っ、そんな手で…っ」
悔しそうに、セレスさんが点棒を狛枝クンに渡す。狛枝クンが一位に上がって、ボクは変わらず二位。
このままいけば、とりあえず最後ってことはなさそうだ。
「あの槓がななければ大分低い点数でおさまってたんですけどねぇ…」
「堅実にしないからダメなんでしょう」


一本場

狛枝クンの親、二回目。

「リーチ」
「私もリーチだ」
そうそうに、セレスさんがリーチを宣言。それに続いて学園長も。
ボクはといえばやっぱり中途半端にしか揃わない牌を頑張って三つずつでまとめようとする。
それなりのところまではいくんだけど、そのあとが来ない。
セレスさんと学園長の表情はもう真剣そのものだった。点数を考えればまあしょうがないだろう。
狛枝クンはいつもどおり。にこにこと笑っていて全く読めない。
ことんと出した牌。それを見て、セレスさんの顔が変わった。
「…っ、ロンですわ」
しょうがなく、といったようにセレスさんが少しの間をおいて宣言した。明らかになった牌。
「あーあ、振り込んじゃった…まあ、点数高くないからよかったけど」
全然残念そうでもない顔で狛枝クンはそういった。それをきいたセレスさんは何もいわなかったけど、その顔はとてもこわかった。
「…まあ、妥当よね」
「あの人の待を見るにもうここで上がってないとちょっと厳しいですよね」


オーラス 親 苗木誠

最後。ボクの親。
でも本当運が悪いのか何なのか、さっき上がれた以外、リーチだってできやしない。あとちょっとってとこまでもこないんだから、多分相当運が悪い。
ううん、と悩みながらことん、と牌をおく。
もうセレスさんはリーチをかけている。今の時点でリーチをかけているのだから、相当強いんだろう。
狛枝クンとセレスさんの点数の差はざっと10000以上ある。ということは並大抵の役じゃ一着にはなれない。
悩みながら、とりあえずセレスさんの上がり牌を出さないようにってそれだけを考えて牌を出す。
セレスさんが出したものなら安心だ。オーラスだから、多分これで終わりなんだろうけどうっかり出してしまって順位を落とすのはなんかいやだ。
どうせなら勝ちたいしね。
「っ、通らば、リー」
学園長もリーチをかける。ここで学園長がリーチをだすことに意味があるんだろうか。大分大きい役なのかもしれない。
ううん、と悩むけどまあいいかと開き直る。ボクは同じように出すだけでいい。振り込まないように。とりあえず順位はこのままをキープしたい。
そんなことを一瞬で考えていた。というのは学園長の言葉に狛枝クンが被せてきたからだった。
「残念、それ、通らないんだ」
にこ、と笑って狛枝クンは牌を開いた。
「三色同順、平和、断?九。12000でおしまい、かな」
学園長、すみません。
最後にしっかり高得点をとって、学園長をトバした狛枝クンの笑顔はそれはそれはとてもいい笑顔だった。

その後

結果が出る。わかっていたことだけれども、それを見たセレスさんはふるふると背中を震わせて、学園長は肩を落としていた。
一着は狛枝クン、二着がボク。三着がセレスさんで四着が学園長。
ボクとしては、狛枝クンがどうせ一着だろうって思ってたから、自分の順位だけが意外だった。
嬉しい、けどこんなに落ち込んでいる二人を見ると喜び辛いなぁ。
「今日はボクの勝ちだね!」
ボクよりも嬉しそうに狛枝クンは笑って椅子から立ち上がりボクの手を握る。
いつも思うことだけれども、狛枝クンの手は大きい。
ボクの手が小さいっていうのもあるかもしれないけれど、狛枝クンの手は白くて細いけど長くて骨ばっていて、綺麗なんだけどやっぱり男の人の手だなぁってボクは思う。
狛枝クンに言わせると、ボクみたいなふくふくした掌のほうがさわり心地がいいからすきだな、ということだけど。ないものねだりってやつだろうか。
ぎゅうと握ったり、指で撫でたりされるとちょっと擽ったい。そろそろ止めようとしていたところで、狛枝クンの腕を誰かの細い白い指が掴んだ。
「はい、放してくださいね」
「ねえ舞園さん。なんで放さなきゃいけないの?」
「狛枝先輩ばかりの苗木くんじゃないんですよ。苗木くんは私達七八期生の苗木くんなんです」
うん?つまりどういうことだ?
にこにこ、と笑う舞園さんの言葉がボクにはうまく理解ができない。七八期生なのは確かだ。でもなんか違う気がする。でもそこに突っ込んだらいけない気もする。
少しずつ冷えていく空気の中で、ボクはどうしようかと考える。霧切さんはもう私関係ありません、って顔をしてそっぽを向いていた。
「っ!リベンジですわ。次は赤全部のせた半荘戦。苗木クンも異論はありませんわよね」
ば、と顔をあげたセレスさんの目は燃えていた。よくわかないけれど、迫力に負けて肯く。
それに異論を唱えたのはちょっと意外なことに狛枝クンだった。
「でももうボクにメリットないよね?」
メリット・デメリットの問題じゃないと思うよ、狛枝クン。
「…じゃあ、苗木クンを付けましょう。下僕として──」
「あ、じゃあ私やります!」
「苗木クンがあなたの所有物のように扱われるのは気に喰わないけれど、私も混ぜてくれないかしら」
セレスさんが言い終わるより先に、ボクが、勝手に人を景品にしないでよ、と文句をいうよりもはやく後ろの二人が手を挙げた。
「私は苗木くんの助手ですから。苗木くんの不利益になりそうなことに関しては徹底的に交戦させていただきます」
「苗木くんは私の助手よ。勝手にそんな風に扱われるのがいやなの」
二人が同時に口を開いたから、内容はボクにはわからなかったけれど、多分ボクのことをいってるんだろうなという想像だけはついた。
「…へぇ、じゃあクリスマス一日苗木クンと一緒に過ごしてもいいってことかな」
「ちょ、狛枝クン?」
まさかのるとは思わなかった。しかもクリスマスって。呆然とするボクを蚊帳の外に、話がどんどん広がっていく。
江ノ島さんが加わり、十神クンが加わり、なぜか先輩方も混ざってきて最終的にはなんか七七期生七八期生の希望者で、ということで落ち着いた。
景品は無難に好きなモノを一つ。いつのまにかまとめ役になってくれていた生徒会長さんには、心の中で大きな感謝をする。

「うまく落ち着いたのはいいけど…なんでこうなったんだろ」
ううう、とボクが小さく項垂れていると、いつものように隣にいた狛枝クンがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「楽しければいいんじゃないかな」
「狛枝クン」
「でも、ボクが一番になったら苗木クンのクリスマス。ボクに貰えないかな」
「ええ?クリスマスだよ?狛枝クン誰か一緒に過ごす人いるんじゃないの?」
「ボクの一番の友達は苗木クンだからね、苗木クンと一緒にいられるのがボクは一番楽しいんだ」
にこにこと笑う狛枝クンをみて、狛枝クンの家族事情とか対人関係を思い出す。そのキラキラした目を見てボクに断れるはずがなかった。
「いいよ。じゃあ、一番になったらね」
クリスマスなんてまだ先の話だし予定は何もない。彼女でもいれば別だけど、そう簡単にできるはずないし多分いつもと同じような日になると思ったからボクは肯いた。
クラスで何かするかもしれないけれど、クリスマスといってもイブと本番とどっちもあるからまあ大丈夫だろう。
ボクとしても、狛枝クンは大切な友達だから、一緒にいることに異論はない。
「約束だからね、ボク絶対一番とるよ」
そういった狛枝クンの嬉しそうな顔を見て、それは多分現実になるんだろうな、と思った。




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