二月の夜は寒い。もそもそと布団の中で身体を丸めながら、ぼくは今日のことを考えつつ眠気がくるのを待っていた。
さっきまで、すごく楽しかったからまだちょっとだけ気が昂ぶっていて眠れそうもないけれど。
明日は誕生日だったけれど、今日の放課後は女の子皆でお祝いをしてくれた。
どうせ、誕生日当日はセンパイと一緒なんでしょ、と茶化すようにいったのは江ノ島さんだった。
確かにその日は凪斗さんと一日一緒に過ごすと決めていたから丁度よかったのだけれど。
クリスマスの夜、凪斗さんの腕の中でもう一つプレゼントをちょうだい、といわれたことを思い出す。
プレゼント?と尋ねるとぎゅうぎゅうと抱き締めながら、凪斗さんは、まことくんが生まれた日のまことくんを下さい。とぼそぼそと呟いた。
まことくんの誕生日をボクが独り占めしていいかわからないけど、と腕の力と反対に自信なさげに言われたことを思い出す。
恋人なのに、改めてそんなことをいう凪斗さんが可愛くてぼくも同じようにぎゅうぎゅうと抱き着いた、はず。
改めて考えるとすごく恥ずかしくなってきたけれど、あの日はイベントということもあって盛り上がっていたんだ、と少しだけ熱くなった頬をぺたぺたと叩く。
それでも熱さはどうにもならなくて、どうせ眠れないのなら、とぼくは布団からのそのそと離れることにした。
暖房をつけていたから、布団から出てもまだ暑い。冷気を求めて、ぼくは窓を開けた。
流れこむ冷たい空気に、体が冷えていく。少し寒いかな、と思ったところで窓をしめた。
熱はさめたけれど、眠気もさめてしまった。まあいいや、と思ってごろんと布団の上に転がる。
明日のことを考える。時間の指定はなかったけれど、朝から迎えにいくからね、と今日の放課後凪斗さんからのメールが届いた。
最近の凪斗さんは忙しくて、ここ一週間ぐらい逢ってない。久々に逢うことを考えるとはやく朝になればいいと思った。
次の日も休みだから、多分夜も帰ってこれないだろう。そう考えると、また顔が熱くなってどきどきしてきた。
凪斗さんと付き合い始めて、はじめての誕生日。色々なことを考えちゃうのは、多分凪斗さんのせいだということにしておく。
「……うん、凪斗さんが悪い」
そういった瞬間、枕の所にあった携帯がいきなり鳴り出した。着信は、狛枝凪斗。まるで見ていたようなタイミングに心臓が跳ねる。
ぱっと体を起こして、姿勢を正す。そして、どきどきしていることがばれないように、二三回呼吸をして息を整えて。
それから、通話のボタンをおした。

『……まことくん?起きてたんだね』
久々に聞く耳元で笑ったその声に、ぼくの背筋はぞくりと震えた。
「うん、起きてたよ……凪斗さん、どうしたの?こんな時間に」
十二時回って誕生日おめでとう、かと思ったらまだ時間は十一時半を過ぎたところだった。だからこそ、着信のタイミングに驚いたのだけれども。
そういうと、凪斗さんは少しだけ間をおいて、呟いた。
『今から、行っていいかな』

うん、と頷いたのはぼくも逢いたかったからだった。逢ってないから、逢いたい。声を聞けば逢いたくなるね、とお互い電話はしなかった。
だからこそ、ぼくは「逢いたい、な」と呟いた。そういうと、凪斗さんは、嬉しそうに笑って、まことくん、と呟いた。
「凪斗さん?」
『うしろ、むいて?』
ひやりとした空気を感じて振り返る。
その瞬間に、聞こえた声。

「『来ちゃった』」

その声の主は、楽しそうに笑って開いた窓の桟の上に座り、携帯を耳に押し当てている。
それは、紛れもなくぼくの恋人の凪斗さんだった。

ぷつり、と通話が切れる。呆然としているぼくのほうへ、律儀に窓をしめた凪斗さんが嬉しそうに近づいてきた。
「逢いたかったよ、まことくん」
久しぶり、といっても高々一週間程度だけれども、本当に久しぶりに逢った気がする。
「っ凪斗さん、いつから外いたの?!」
ぎゅう、と抱き締めてくる腕はいつもよりずっと冷たくて、ぼくは慌てた。
体温の低い凪斗さんに触られるのは嫌いじゃない。ぼくが子供体温だからかもしれないけれど、冬も夏もそれなりにバランスがとれてると思う。
だけど、これは冷え過ぎだ。いつものコートはまるで氷のように冷たい。それがいやなわけじゃなくて、ただ心配になる。
「さっき帰ってきたんだ」
どうせなら、まことくんの寝顔みてから戻ろうと思って。
そういって、にこにこと笑う凪斗さんに、ぼくははあと溜息をつく。
「……どうせ明日逢うのに」
「はやく逢いたかったんだよ」
ぼくだって逢いたかったくせに、嬉しかったくせに。照れ隠しで可愛くないことをいってしまった自覚はある。
それでも凪斗さんはにこにこと笑ってぼくを抱きしめてくる。
「まことくんあったかいから」
嬉しそうなその顔に、ぼくは何もいえなくなった。真っ赤になったぼくをにこにこと凪斗さんは見ている。
居た堪れない。なんか恥ずかしい。久しぶりだから?こんな感じだったっけ?
「……えっと、凪斗さん寒いならシャワーでもあび ──」
「積極的なまことくんも可愛いけど、あとちょっと、こうしていたいな」
とりあえず、離れようと思って言ったぼくの提案に、凪斗さんは嬉しそうにただ微笑んだ。
積極的、な……?
「っ!そんな意味じゃなくて!体!冷えてるから!ね?!」
そういうつもりじゃない。一気に赤くなってしまった顔が熱い。
そんなぼくをみて、凪斗さんはただくすくす笑って「わかってるよ」と呟いた。
「ね、もちょっとまことくんを充電させてよ」
ぎゅうぎゅうと強くなる腕の力に、ぼくはただううう、と唸るしかなくなった。
こうなったら凪斗さんは離れない。諦めてぼくも凪斗さんを堪能することに決めた。
久々なのは同じ事だ。ただ恥ずかしがってるよりは、こうやって逢えたことを喜ぶべきだろう。

「……まことくん、」
「なに、」
暫く他愛もない話をしている途中、凪斗さんが改まったように名前を呼んだ。
不思議に思って、問いかけるとぎゅっと抱き締められ触れた唇。
携帯からメール受信の音がなる。時計を見ると、十二時丁度。
余裕があったのはそこまでだった。
薄く開いていた口から差し込まれた舌が、ぼくの舌に触れた。柔らかな感触に、ぼくは目を閉じる。
凪斗さんの唾液と息がぼくのものと混ざり合う。触れ合う熱さに頭がくらくら、背筋がぞくぞくする。
けれど、その熱が気持よくてぼくは凪斗さんの首に手を回した。
もっと、というようにぼくはそのまま体を寄せる。
「は、ぁ…っ」
なれない息継ぎに、凪斗さんが笑ったような気がした。

つう、と繋がった糸が切れるのをぼうっとした頭で眺めていた。
「おめでとう、まことくん」
その凪斗さんの言葉で、もう日付が超えたことを思い出す。
突然のキスでそんなこともとんでしまってたらしい。
「あ、…ありがとう」
凪斗さんの腕の中、逃げる場所なんてどこにもない。ただうつむいて、赤くなった顔を隠す。
「……生まれてきてくれて、ありがとう。キミとあえて、こうやって一緒にいれてボクは本当に嬉しい」
キミが好きだよ、そういって心底嬉しそうに笑う凪斗さんにぼくの顔はどんどん赤くなっていく。
すきとかあいしてる、とか何度きいてもこうやって嬉しくなるのは、ぼくも凪斗さんのことをすきで、あいしているからだ。
恥ずかしいから、ぼくはあまり口にできないけれど、たまには伝えたいときもある。
凪斗さんは、クリスマスのプレゼントに今日一日のぼく自身をちょうだいっていったけれど、結局ぼくも嬉しいからお互い様だ。
久しぶりに逢ったこと。ぼくの誕生日。凪斗さんのクリスマスプレゼント。どれもこれも多分その口実には丁度いい。
「……ぼくも、」
「まことくん?」
「ぼくも、凪斗さんと一緒にいれて、嬉しいし……凪斗さんのこと、すき、だよ」
最後のほうは口の中だけで、もごもごと潰れた声だったけれど、ちゃんと聞こえていたらしい。
凪斗さんはぼくの肩に頭を埋めるようにして、回していた腕に更に力をいれた。
「……反則だ」
「凪斗さん?」
「まことくんの誕生日なのに、ボクがプレゼント貰ってる気がする……」

そう呟いた凪斗さんにぼくはくすりと笑った。
「凪斗さんかわいい」
「まことくんのほうがかわいいよ?!」






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